『 .....神去村(かみさりむら)には何もない。
遊ぶ場所もコンビニも服屋も食べ物屋もない。
あるのは村を何重にも取り囲む山また山。......』
この『何も無い』村には
「神も人も動物も植物もいっしょくた....。」の
”神去りファンタジー”と、
神去の方言”なあなあ”
(大事も小事も、まあいいじゃないか。ゆっくり行こう)
のゆるさで生きる村の人々がいる。
主人公の平野勇気、
横浜生まれサラリーマン家庭育ちの若干二十歳。
何の因果か滋賀県の山奥、神去村の地元大手林業会社に就職。
『何でもある』街で育った彼には、
村人達の言動も行動も、そして、起きることの一つ一つも
その感性の琴線に触れまくるのだろう。
神隠しやお稲荷さん絡みの失せ物事件、
尊厳にあふれた村祭りというイベント、
そして、勇気の間借り先であり同僚のヨキとみきさん夫妻、
彼いわく”しわくちゃ饅頭”ながら村の叡智かつ長老であるヨキの祖母しげばあちゃんに、
彼の片恋の女性’(ひと)直紀さんらと暮らす
日常の些事が、超都会っこと若さゆえの感性でもって軽妙洒脱に語られ、クス笑いを誘う場面の連続である。
そして、その軽い感性から生まれる描写ゆえに、
幾つかの神妙にならざるを得ない場面では
読み手にも一滴の”気づき”のしずくが落ち、こちらの心に染みわたる深遠な感覚が残る。
何もない所だからこそ、住むものは心自由自在に暮らし、
その個性の輪郭は一際くっきりと見えるもの。
そして、目に見えないはずのものも観え、
もはやファンタジーを越えて目に見える信じているモノになる。
何もない所は、実は、
何でもある所なのかもしれません。
何でもある都会に暮らす人も、何もない所に暮らす人も、
秘密がいっぱいの神去村ファンタジーの世界へようこそ。
ともに、同じ何か、が見つかる・見えるかもしれません。
【局アナnet】
三浦まゆみ(気象予報士、アナウンサー、翻・通訳)
書名:神去なあなあ夜話
著者:三浦しをん
発売日:2012/11/28
定価:1500円(税込)