本を知る。本で知る。

生きる力...『生きるぼくら』

 そういえば
「おにぎり」が無性に食べたくなることがあった。
パンが主食の国で暮らしていた頃のこと。
 
”ソウル・フード”・・・お米。物語が佳境に差し掛かったあたりでそんな言葉と思い出が浮かんだ。

主人公の名前は『人生(じんせい)』。なんともドキリとする名前です。『人生は......をした、である、思った。」『人生』が主語になるたびに
まるで自分の人生の某かをチェックされているようで、我が身の人生を振り返る錯覚に何度か陥りました。

両親の離婚と父の失踪から始まり、
母子家庭、いじめ、ひきこもりを経て、ついには母の失踪事件をきっかけにして、『人生』は人生らしい生き方探しに出かけます。

母が残した1通の年賀状に綴られた、父方の母であるマーサおばあちゃんの意味シンな一行。その言葉に導かれるようにして、突如蘇った幸せだった幼少時代と大好きだったおばあちゃんへの記憶が蘇ります。

はやる気持ちで飛んで行った蓼科で彼を待っていたのは、祖母だけではありません。
その後の彼の人生には欠くことのできない大切な人と人々。
さらに、彼の使命ともなるだろう仕事、日本の伝統食・米作りでした。

全てが手作業と自然の流れまかせの
米の持つ”生きる力”を信じる旧式の農法。今では特殊な農法となった祖母式の米作りに渾身するうちに、日本の田園風景に宿る独特の光り、匂い、吹く風の感触、
万物を育てる見えない力....の中で、『人生』は自らの"生きる力"を呼び覚まします。

いじめ(子供、大人社会ともに)、ひきこもりに留まらない、この物語には統合失調症、農村の過疎化、日本の農業という産業の衰退等、社会問題とされている事が盛り込まれています。

 ふと現実に引き戻される場面にも多々遭遇しますが、随所で語られる「お米の(生きる)力を信じること。」マーサおばあちゃんの米作りの極意でもあるこの言葉に、社会問題の背景にあるだろう無数の傷をも癒すだろう確かな力が込められています。

そして、物語の結びのキーワードにもなる”おにぎり”。最終章では『人生』の人生の範囲を越えて、あなたにもわたしにも伝わる大切な何かが見つかることでしょう。

お米.....ソウル・フード。無性に欲して食したあのおにぎりは、例えようのないホームシックを埋めるための味だけではない、日本人である”わたし”の存在を確かめる豊かなごちそうであった。そんなことも思い出しつつ、『人生』からもらった温かさと”わたし”にとって大切なことに
心満たされながら静かに本を閉じた逸書....です。

【局アナnet】三浦まゆみ(気象予報士、アナウンサー)


書名:生きるぼくら
著者:原田マハ発売日:2012/9/30定価:1680円(税込)

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