ワールドカップはまだまだ真っ盛りです。ところで、イングランドはPK戦に弱いというのはご存知でしょうか(PK戦どころかもう予選リーグで敗退してしまいましたが)。90年のワールドカップ、96年のユーロ、98年のワールドカップ、2004年のユーロ、2006年のワールドカップ、いずれもPK戦による敗北を喫しています。呪われているとさえいわれる無残な負け方。あのベッカムでさえはずしています。ここまで負けると、選手たちには、恐怖感が生まれるらしい。オレもはずしてしまうのでは……。プレッシャーが重く選手にのしかかり、顔面蒼白。バランスを崩して球のコントロールを失う、力が入りすぎて、枠をはずす。見ていられない状況になります。マイケル・オーウェンはPKについてこう述べています。
「PK戦ほど精神的に辛いものはない。ペナルティマークで笛が鳴るのを待っている時には、自分の身体が自分のものでないような気がする」
さまざまな情報によって脳に刷りこまれる、恐怖や安心や期待などの感情。それはその後の行動に大きな影響を及ぼします。脳からの指令は、そうした感情に左右されるからです。
こんな例もあります。のどが渇いて体が水分を欲しているとき、目の前にあるスポーツドリンクを飲めるとしましょう。容器を見た瞬間、つかんだ瞬間、そして飲んだ瞬間に、水分が補給できるという「期待」の信号が脳に送られます。飲んでたちまち水分が体に吸収されるわけではないのに、脳はもう吸収されるという「期待」でいっぱいになり、だいじょうぶサインを体に出しています。考えてみれば、私たちが飲むドリンク剤も同じです。飲んだ瞬間に効くわけがないのに、飲みほしたその瞬間に元気回復しているのは、こうした事情によるのです。
ほかにも、ワインのテイスティングやプラシーボ効果など面白い事例が多数紹介されています。あなたの脳も例外ではありません。この恐ろしく(?)、興味深い脳のはたらきを垣間見てみましょう。
書名:期待の科学 悪い予感はなぜ当たるのか
著者:クリス・バーディック
訳者:夏目 大
発売日:2014/6/19
定価:本体1800円(税別)