「つらい時こそ笑いましょう」――。「今こそ笑いを」とよく聞くようになったが、「史上唯一の天下を獲った女性ピン芸人」が言うと、その言葉の力がグンと増す。
山田邦子さんの著書『生き抜く力』(祥伝社新書)は、バッシング、闘病、コロナ禍......すべてを力に変える抱腹絶倒の人生指南書。
「人気絶頂のあの時代から現在まで40年間の芸能人生活で、私だけが見た世界があります。(中略)いろんな経験をしたけれど、みなさんのおかげで全部が今の私の生きる力になっています」
山田さんは昨年デビュー40周年を迎えた。芸能生活40年ともなると、ご本人の体験談も著名人とのエピソードも、中身の濃いモノが次から次へ飛び出してくる。
本書の全体像はザッとこんな感じだ。
下町育ちの「勘違い少女」だった山田さんは、週にレギュラー14本を抱える売れっ子芸人になった。夏目雅子さん、島倉千代子さんなど昭和を代表するスター、「オレたちひょうきん族」で苦楽をともにしたビートたけしさん、明石家さんまさん、島田紳助さんとのエピソードをとおして、昭和、平成、令和の芸能界を生き抜いてきた、そのエネルギーの源を探る。
登場する著名人の顔ぶれも、なんとも豪華だ。「夏目雅子さんと2人で電車に乗る」では、夏目さんは山田さんの「3つ年上の本当にいいお姉さん」で「とてもガッツのある方でした」と書いている。
2人で電車に乗るときは帽子と眼鏡をしていたが、見つかって周りがザワついたことも。そんなとき「雅子姉ちゃん」は「あ、どうも」とキラキラスマイルでやり過ごし、「普通のことができなきゃつまらないでしょ?」と言っていたという。
「美人女優と言われるような人は、手の先や髪の毛から性格まで、すべて美しいのだなと思いました。若くして亡くなってしまって、本当に残念です」
「普段は物静かな志村けんさん」というのもある。山田さんが志村さんと初めて会ったのは、新宿二丁目の飲み屋。そこでたまたま会えば、「やあやあ」という感じで盛り上がり、朝まで一緒に飲んだり、駄洒落を言い合ったり、近況報告をしたりする仲だったという。
「志村さんは、自分からわあわあ言う人ではなく、ずっとにこにこして焼酎を飲んでいました。(中略)普段はもの静かで、テレビの志村さんとは違う感じでした」
そして「もう一回、志村さんに会いたかったなあ」と書いている。今は亡きスター、若かりし日の大御所とのエピソードの数々は、かなりレアで興味深い。
「わざわざ『お前はもうだめだ』と言いに来た人」では、芸能界の裏側を目撃した気分になる。
山田さんは1988年から8年連続、NHKの「好きなタレント調査」で第1位を獲得。しかし、順位が落ちてくると「人気があった反動でディスられることが、それはそれは多かったです」。"転落人生"と言われたり、大物歌手がわざわざ訪ねてきて「お前はもうだめだ」と言ったりしたという。
「酷い嫌がらせや醜い争いは大嫌いなので、どーぞ、どーぞと退散しました。それが"転落"なのでしょうか? 私がオリジナルで作った山ですから、あとからマネて登っても本物の人気者にはなれませんよ」
しばらくお見かけしないうちに、テレビの外に活動の場を広げていたようだ。2013年には岩手県の山田町復興ふるさと大使に任命されている。
東日本大震災のニュースを見ていたとき、津波と火事で「焼け野原のようになった町」が映し出された。画面には「岩手県山田町」とある。
「山田と聞いたからには、他人事とは思えません。(中略)ここを応援しようと決めました」
そして、震災1ヵ月後に山田町に行った。震災から10年となった今も、行けるときは通っているという。
人気ランキングからの転落、乳がんの発覚時に見た人間の本性......。SNSの誹謗中傷が社会問題化した今、本書は多くの人を勇気づけ、共感を呼ぶだろう。
本書を読んで、山田さんの凛とした強さ、笑いへの情熱がビンビン伝わってきた。「絶頂と絶望」を経験した山田さんだから書けた本書には、「逆境に動じない原動力」がみなぎっている。元気を出したい! 笑いたい! なにかを吹っ切りたい! そんな人におすすめしたい。
還暦を過ぎてもなお、果敢に挑戦し続ける山田さんの「やまだかつてない」一冊。
■山田邦子さんプロフィール
1960年東京都生まれ。80年芸能活動開始。81年デビュー曲「邦子のかわい子ぶりっ子バスガイド篇」で有線大賞新人賞受賞。「オレたちひょうきん族」「邦ちゃんのやまだかつてないテレビ」などで人気を博し、多数の冠番組を持つ。2007年乳がんに罹患し、08年がんに対する知識と理解を呼びかけるチャリティー団体「スター混声合唱団」を設立。同年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」メンバーとなり、「乳がん検診の大切さ」について全国で講演をしている。20年YouTube「山田邦子 クニチャンネル」開設。
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