「Pride(誇り)」ということばが、英語ではライオンの群れを意味するという。このほか、クマの群れは「Sleuth(探偵)」、ラクダの群れは「Train(列車)」、フクロウの群れは「Parliament(議会)」、花の束は「Bouquet(ブーケ)」......。
英語には動物やものの集まりを呼ぶことばが無数にあり、このようなことばを「Collective Nouns(集合名詞)」と呼ぶそうだ。
絵本作家・翻訳家の前田まゆみさんの著書『ライオンのプライド 探偵になるクマ――集まると楽しくなる英語の集合名詞えほん』(創元社)は、言葉のもつ多様性と鮮やかなイラストが味わえる一冊。
「無数の『群れ、集合を表すことば』の中から、とくに動・植物など自然界のものを中心に一般的なものや面白いと感じたものを選んで紹介してみました」
なぜ、集合を表すときにまったく別の意味のことばを使うのか。日本人の感覚的には疑問である。
実際、どんな群れも「Group of~」と呼んでおけばまちがいではないそうだが、英語には「集団」をさすことばが数えきれないほどあり、使い分けられているという。このことは、英語を母国語とする人々にとっても興味深い謎のようで、多くの本が出版されている。
中世のころ、こうしたことばは狩りの獲物や家畜を呼ぶことから生まれたそうだ。狩りはイギリスの上流階級の文化。動物や鳥の群れを"正しい"ことばで呼び、そのことばを階級内で共有することはステータスであり、大切な教養とされた。それがだんだんと一般化したのではないかと言われているという。
「ふつうに考えると、その生き物の名をストレートに呼べば良さそうですが、ひとひねり情緒やユーモア、皮肉を加えて湾曲に詩的に表現することは、英語の中にある独特の文化なのかもしれません」
本書は全部で50の「集合名詞」を収録し、見開きで1つずつ紹介している。なぜその「集合名詞」を使うのか。理由がわかっているもの、前田さんが推測するもの、謎のものなど、さまざま。読者が想像を膨らませる楽しみもある。
■Pride of Lions(プライド オブ ライオンズ)
Pride:誇り、自尊心
Lion:動物種としてのライオン、オスライオン
【例】A Lion and His Pride(オスライオンとその群れ)
ライオンのPrideは、姉妹、親子など血がつながるLioness(メスライオン)たちとその子ども(Lion Cub)たちから成り、そこに1、2匹のオスライオンが加わる。
Prideを従えたオスライオンは、「百獣の王」として絶頂に君臨しているように見えるが、実は、まわりの放浪オスがPrideを乗っ取ろうと、虎視眈々と狙っている――。
「野生ではそんな厳しい暮らしをしているライオンですが、人に飼われるとよくなつくことがあります。子どものころ育ててくれた人のことは何年過ぎても憶えていて、再会すると抱きついてじゃれたりします」
■Army of Ants(アーミー オブ アンツ)
Army:陸軍、軍隊
Ant:アリ
【例】An Army of Ants Marching in the Violet Forest(スミレの森を行進するアリの群れ)
アリは、女王アリとたくさんの働きアリ(メス)、少数のオスアリから成る集団で生活し、軍隊のように組織化され、それぞれの役割を果たしている。雑食性で、虫の死骸や落ちた果実など、なんでも食べるという。
「一匹のアリは弱い生き物ですが、集団になるとかなりの攻撃力で、Armyのイメージ通りかもしれません」
■Cluster of Stars(クラスター オブ スターズ)
Cluster:集団、ひとかたまり、同時に起きるものごとや事件
Star:星
【例】It's a vast cluster of stars!(それは大きな星団です!)
「集団感染」の意味ですっかり有名になったCluster。これは動物より天文学でよく使われるという。Cluster of StarsまたはStar Clusterは恒星の集まり、「星団」をさす。銀河の集まりはCluster of Galaxies。
「(星団は)同じ物質から派生した星の集団とも考えられ、宇宙を観察するのに重要な手がかりです」
本書は、子どもから大人まで楽しくためになるえほん。あたたかみのあるイラストを眺め、動・植物の生態を知り、英語独特の文化にふれることができる。
「英語は身近な外国語ですが、奥が深そうです」――。「集まると楽しくなる英語の集合名詞」の奥深い世界をのぞいてみませんか。
■前田まゆみさんプロフィール
絵本作家、翻訳者。1964年神戸市生まれ、京都市在住。神戸女学院大学で英文学を学びながら、洋画家の杉浦祐二氏に師事。著書に『幸せの鍵が見つかる 世界の美しいことば』(創元社)、『野の花えほん』(あすなろ書房)、『くまのこポーロ』(主婦の友社)など、翻訳書に『翻訳できない世界のことば』(創元社)、『100年の旅』(かんき出版)などがある。『あおいアヒル』(主婦の友社)で第67回産経児童出版文化賞・翻訳作品賞を受賞。
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