「運命に逆らってでも 君に、生きていてほしい」――。
コロナ禍で子どもの自殺が深刻化している。昨年は5月以降に急増したという。「連休後の子どものSOSを見逃さないで」と多くのメディアが報じていた。
そこで手にとったのが、星火燎原(せいか りょうげん)さんの著書『死にたがりな少女の自殺を邪魔して、遊びにつれていく話。』(宝島社文庫)。第8回ネット小説大賞受賞、小説投稿サイト「小説家になろう」恋愛部門で月間1位を獲得するなど、多くの読者が絶賛したウェブ発の注目作である。
なんともインパクトのあるタイトルだ。現実に「自殺を邪魔する」ことができればと思いつつ、読み始めた。物語の書き出しはこうだ。
「ある少女の自殺を邪魔している。その少女は、自殺願望がある。その少女は、いつも一人でいる。その少女は、どこか僕に似ている。きっと僕と同じように生きているだけで苦痛なのだろう。邪魔なんかしない方が彼女のためなのかもしれない。けれど、僕は彼女が諦めるまで邪魔し続ける。自殺を邪魔するのはそこまで難しくない。自殺現場に先回りして、少女が来たら遊びにつれていくだけだ」
僕は「生きているだけで苦痛」とある。「死にたがりな少女」の自殺を邪魔する僕自身、じつは「死にたがりな青年」だったのだ。
僕・相葉純は今年で二十歳になる。高校は卒業したものの大学に進学せず、職にも就いていない。「僕の人生はレールから完全に脱線していた」。
そんな僕には、何度繰り返しても少女の自殺を止める方法がわからない。少女の名前は一之瀬月美。中学三年生。絵に描いたような美少女であり、一言でまとめると「自殺とは無縁そうな子」。
僕がいくら邪魔しても、一之瀬は自殺を諦めない。数週間後、早いときは数日後に再び決行する。彼女が諦めるまで何度でも邪魔するつもりだが、僕には一つ問題がある。余命が残り僅かなのだ。
「ある時計を手に入れた代償として、寿命を手放した。とても信じられないと思うが、本当の話だ。僕は寿命と引き換えに――時間を巻き戻せる時計を手に入れた」
それは高校生活最後のクリスマスのこと。僕は橋の上で「死神」を名乗る不気味な女に声をかけられた。
「相葉純さん。貴方の寿命を譲ってはもらえないでしょうか?」
「貴方、死にたがっているでしょう?」
大学に進学する気も、働く気もない。今すぐにでも橋から飛び降りて楽になりたい。そう、僕は「こんな無意味な人生、さっさと終わらせたかった」のである。そこで、死神はある取引を持ちかけてきた。
「貴方の三年後以降の寿命と、このウロボロスの銀時計を交換しませんか?」
「ウロボロスの銀時計」とは「時間を巻き戻せる時計」なのだという。今まで自殺できなかったのに、その日の僕はなぜかあっさり承諾した。
「貴方は三年後の十二月二十六日、午前零時に息を引き取ります。残りの三年間をどうぞお楽しみください」
「絶対に寿命を手放したことを後悔しないでください」
僕にとって、余命三年というゴールが見えているのは心強いことだった。死にたくなっても、「どうせ三年後には死んでいる」と言い聞かせることができる。ただ闇雲に生きるより、ずっと楽に思えるのだった。
死神との取引からちょうど一年後。僕の余命の過ごし方を一変させる出来事が起こる。「中学生の少女が橋の下で死亡しているのが見つかった」という報道を目にしたのだ。少女が転落した橋は、僕が死神と取引した橋だった。
「この橋を死に場所に選んだというだけで親近感を抱くには十分だった。だから余計な情が移ってしまい、『時間を巻き戻して、少女の自殺を邪魔する』そんな馬鹿げたことを思いついてしまったのだろう」
こうして、死にたがりな少女の自殺を邪魔する日々が始まった。死神に寿命を渡した青年と、自殺願望を持つ少女。「生きづらい」二人は、自殺を邪魔する側・邪魔される側という妙な関係で交流していく。
あとがきを読むと、この物語は著者の実体験を反映したものとわかる。「この本は、(中略)死にかけな人間が書いた物語でした」とも書いている。「死にかけ」からのネット小説大賞受賞、デビューとは、希望を持てるエピソードである。
果たして、死にたがりな二人が迎える結末はハッピーエンドか、それとも――。現実離れした設定でありながら、「生きていてほしい」と願い、奮闘する僕に共感できる。少女にとっての僕のような存在が、自分にもいるかもしれない。そう思って元気になれる物語。
■星火燎原さんプロフィール
2020年『死にたがりな少女の自殺を邪魔して、遊びにつれていく話。』で第8回ネット小説大賞を受賞。2021年同作でデビュー。
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