「重ねる歳はあるけれど、明けない夜はないはずだ」
ジェーン・スーさんの『ひとまず上出来』(文藝春秋)は、いまの自分の「ちょうどいい」が見つかる、最新エッセイ集。「CREA」(2016年6月号~2020年12月号)の連載「●●と▲▲と私」に加え、SNSで話題沸騰の推しエッセイ、楽しいお買い物についての書きおろしなど、50エッセイを収録。
スーさんは現在、40代後半。加齢によるプラスもマイナスもあれもこれも、ざっくばらんに書いている。齢を重ねることを悲観しない。それでいいのだと、前向きなメッセージにあふれている。
■目次
化粧が写真に写らない/フワッと膝を開いていこう/なぜ私のパンツは外に干せないのか/ジャストサイズを更新せよ/「四十代になれば仕事も落ち着く」は幻想です/三度目の不倫会見を見た/私はちょっと怒っているんですよ/頑張れたっていいじゃない/「おかしい」と言うことの難しさよ/昔の私に教えてあげたい、夢の叶え方/やりたいか、やりたくないかの二択です/中年の楽しいお買い物~一触即発編~/中年の楽しいお買い物~運命の出会い編~/ラブレター・フロム・ヘル、或いは天国で寝言。 etc.
類まれなユーモアと、ぐいぐい引き込まれる筆力。この快感としか言いようのない読書体験を1人でも多くの方と共有したい! そんな思いで、本書からいくつかピックアップして紹介する。
まず、「中年の楽しいお買い物」から。「一触即発編」は「やっちまったよ、久しぶりに。」で始まる。
それはセレクトショップを訪れた時のこと。商品を選び、レジまであと30歩のところで「事件」は起こった。かわいらしい小さなバッグが目に入り、じっと眺める。店員と何度か目が合ったものの、一向に近づいて来ない。「あ、これは舐められているな」と思い、自分から声をかけ、バッグを見せてもらう。すると、「二十万円になります」と店員は言った。
「買えないでしょう? とでも言いたそうな声色。へえ~そうなんだ、とたじろぎもしない表情で仁王立つ私。(中略)心の中の小さな私が、戦闘モードに入った外側の私に『やめろーーー!!』と大きな声で止めてもダメ。『じゃあいただきます、それ』」
続く「運命の出会い編」では、なかなか見つからなかった、思い描いていた通りのネックレスに300円ショップで出会う。ほとんど毎日身につけ、何度も人に褒められた。ここに「加齢のトリック」が......。
「妙齢の女性なら高価なアクセサリーをつけているはず、という世間の偏見を逆手に取って、人の目を欺きながら泳いでいく楽しさよ。なにも入らない二十万円のバッグを買う愚行も、三〇〇円のネックレスを買う楽しさも、どちらも中年の贅沢と言えましょう。とにかく、好きにやっていこう。それしかない」
もう1つ、「昔の私に教えてあげたい、夢の叶え方」から。スーさんは現在、会社員時代にはできなかった経験をする機会が増え、いわゆる「厚遇」に狼狽えることもあるという。
会社員だった頃、夢の叶え方を教えてくれる人はおらず、「私は何者でもないから、高望みしたところで叶いっこない」と思っていた。
「この『何者でもない』という言い回し、振り返ると成長の足かせにしかなりませんでした。(中略)何者かどうかは他者が勝手に決めることだったのです。これは知らなかったよ」
たとえば、自分で自分にOKを出しても周囲は知らんぷりだったり、逆に、自分ではOKが出せないうちに神輿に担がれ大通りに連れて行かれそうになったり......。
「夢があるなら、それが荒唐無稽なほど、いまの自分を評価してくれる場所を見つけ、そこで『あなたはこれが得意ね』と言われることをやり続けたらいいと思います。努力するなら、そっちのほうが楽しい」
40代半ばから、「鋼に近いと思っていたメンタルがブレる日」が出てきたというスーさん。更年期障害の一環とのことだが、「第二の思春期」のようで楽しくもあるという。
「加齢は楽しいことか、それとも苦しいことか。感情を仕分けすると、現時点では六:四で楽しいと言えます。さすがに七:三とは言えないけれど。(中略)若い頃には若い頃の楽しさと苦しさがあって、中年には中年のそれらがある。そんな感じです」
これからも「自己観察と微調整を続けながら」「変化を楽しむ」と書いている。なるほど、そんなふうに生きて、どんな日の自分も「ひとまず上出来」と思えたらしあわせだ。
何度笑い、どれだけ元気をもらったことか。本書の「ちょい読み」などのコンテンツを楽しめる特設サイトも、ぜひチェックしてほしい。
■ジェーン・スーさんプロフィール
1973年、東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、ポッドキャスト番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」のパーソナリティとして活躍中。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ文庫)、『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文春文庫)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮文庫)、『私がオバさんになったよ』(幻冬舎文庫)、『これでもいいのだ』(中央公論新社)、『女のお悩み動物園』(小学館)、高橋芳朗との共著に『新しい出会いなんて期待できないんだから、誰かの恋観てリハビリするしかない 愛と教養のラブコメ映画講座』(ポプラ社)など多数。
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