今から30年前、26歳の若さでこの世を去ったシンガーソングライター、尾崎豊さん。当時「十代のカリスマ」とも呼ばれ、「15の夜」「卒業」「I LOVE YOU」などの大ヒット曲は今も広く聴き継がれている。
尾崎さんが遺した50数冊のノートをまとめて2012年に刊行された『NOTES 僕を知らない僕 1981-1992』(新潮社)が、没後30年を記念し、10年ぶりに重版となった。歌詞の構想、ライブのセットリストやMCの案、日々の思いや懊悩など、貴重な資料の数々がつまっている。書き記された「生の言葉」からは、15歳から26歳までの、等身大の尾崎さんが見えてくる。
尾崎さんが遺した50冊以上のノートの中には、推敲が激しくて読み取れない文章、殴り書きで判読不明な文章などもあったそうだが、本書ではあまり整理の手を加えずに、「尾崎豊の言葉」としてほとんどそのまま収録されている。修正は誤字脱字など最小限にとどめ、注釈や解説も極力控えられている。正真正銘、尾崎豊さんのノートそのままということだ。
アマチュア時代に書いた言葉が晩期の作品に反映されたり、ある制作ノートに書かれた詩が次のアルバムに収録されたりと、ファンならばたまらないさまざまな発見が眠っている。
第1章「1981-1983.3 アマチュア時代」におさめられた文章を一部紹介しよう。音楽家としてスタートする前の、いち少年であった尾崎さんが、15歳から16歳にかけて自分のノートにつづったものだ。
正直に生きたい。そう思う。けど この世の中、やりたい
ことだけ やって生きてゆくことはどうも出来ない様だ。
ぼくの心には 夢を見て夢を追いかけても しょせん
夢は夢でしかなく 夢に敗れ 挫折してゆくとゆう不安
がいつもある。そして ぼくは どうすればこの世の中で
現実に夢をつかむことが出来るのか 思いをめぐらして
見るんだ。
(中略)
学校のカリキュラム以外の勉強の方法でも
もっと 自由な勉強の体制を 社会全体が考えるべきです。
でなければ 日本の少年たちの見る夢は学校のカリキュラム
みたいに味気なくて 教科書みたいに あたりまえで
つまらなくて 授業みたいに夢を見ることさえ 退屈に
なってしまいます。
社会や教育に強い疑問を抱き、ノートにぶつけていた尾崎少年。あなたももしかしたら、10代の頃、溜まった鬱憤を日記帳に書いて、誰にも見られないように引き出しにしまっていたかもしれない。きっと多くの少年少女のノートは、引き出しの奥にしまわれたまま、大人になって忘れ去られてしまう。しかし尾崎さんは、自分の戦いや迷いをそのまま音楽にして、人々の前で歌うようになった。
本書の監修と解説を手がけたのは、生前の尾崎さんを支え続けた、"育ての親"ともいえる音楽プロデューサー・須藤晃さんだ。須藤さんは尾崎さんの音楽について、「混じりけのない純粋さとともに、分別のなさや劣等感や迷いや薄っぺらさや下品さや、通常は他人には隠しておきたい心の一面」をさらけ出して歌ったところが、当時の若者たちに限らず、大人たちをもひきつけた理由だと語る。それは、大人にはできないことだからだ。
人は成長していくにつれ、自分の醜い心の闇を隠すすべを体得したり、諦めたり、処世術を身につけたりするものだ。言っても仕方がないことがあるんだと教えられる。しかし彼はそう思わなかった。 (新潮社公式サイト『「卒業」の輪郭──尾崎豊について 須藤晃』より)
デビュー前のノートにはじまり、音楽活動を始めてからの歌詞の思索、20歳になって方向性を見失い、単身ニューヨークへ渡った期間の懊悩などが赤裸々につづられている。15歳から26歳まで、ひりつく若さをほとばしらせて駆け抜けた尾崎さんの「生の言葉」は、きっとあなたの胸をも貫くはずだ。
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