歴史上、絵画に描かれてきたのは、きれいなものや立派なものばかりではない。数々の芸術家が「悪魔」に魅入られ、さまざまな作品にその姿を描き残してきた。
悪魔は芸術の中にどのように誕生し、どう受けとめられてきたのだろうか。2022年6月8日発売の『悪魔絵の物語』(グラフィック社)は、ミケランジェロ、セザンヌ、ドラクロワ、ロダンなど偉大な芸術家たちが描いた悪魔の絵画から悪魔の歴史を辿る一冊だ。美しく鮮明なビジュアルはもちろん、神話や聖書、文学に登場する悪魔や、悪魔の地政学、悪魔の動物誌などあらゆる角度から、人々の中に息づいてきた悪魔の姿を詳しく解説している。
本書の内容を一部ご紹介しよう。下のステンドグラスは、「最後の審判」(世界の終末に、人間が生前の行いを評価され、天国行きか地獄行きかを決められる審判)を表現したもの。天秤の左側に毛むくじゃらの悪魔が、右側には救済を懇願する裸の人間がのっている。天秤が悪魔の側に傾けば、人間は地獄へ落ちてしまう。
下の絵は、ミケランジェロの有名な祭壇画《最後の審判》の一部。中央に描かれているのは、冥界で死者の審判官を務めるミノス王だ。ロバの耳を生やし、体には蛇が巻きついている。ミノス王の周りには人間の姿をした悪魔たちが群がっている。ミノス王は《最後の審判》の中で例外的に、聖書に登場しない神話上の人物だ。
下の絵画で膝の上の牡蠣を食べている牡山羊は、悪魔の象徴だ。非対称な角をもち、堂々とした風格で手下たちを従えている。山羊は攻撃性と強い性欲をもつため、中世から悪魔と関連づけられてきた。牡蠣は催淫作用を高めるともいわれ、この山羊の悪魔的イメージをさらに強調している。
醜いと同時に言いようのない美しさがあり、見る者をとりこにする絵画上の悪魔たち。悪魔の世界に一度足を踏み入れると、戻ってはこられないかもしれない。
〈悪魔を物語る重要作品18〉
・作者不詳《魂の計量》
・ミケランジェロ《最後の審判》
・ロダン《悪魔の手》 など
〈悪魔を物語る意外な作品19〉
・ヴィヴァリーニ《とりつかれた女の悪魔祓いをする殉教者ペテロ》
・サフトレーフェン《悪魔劇、または牡蠣を食する牡山羊のいる室内》
・ドラクロワ《ファウストとメフィストフェレス》 など
■著者 アリックス・パレさんプロフィール
ルーヴル美術学校卒。17~20世紀西洋絵画の専門家。8年間、ルーヴル美術館とヴェルサイユ宮殿で勤務。美術史のワークショップや講演を行う他、パリで開催される大規模展覧会に関わる。
■監修 冨田章(とみた・あきら)さんプロフィール
1958年生まれ。慶應義塾大学文学部卒。成城大学大学院文学研究科修了。財団法人そごう美術館、サントリーミュージアム[ 天保山]を経て、現在、東京ステーションギャラリー館長。これまで「ロートレック展 パリ、美しい時代を生きて」「エミール・クラウスとベルギーの印象派」「シャガール―三次元の世界」「メスキータ」などの展覧会に関わる。著書に『ビアズリー怪奇幻想名品集』『ゴッホ作品集』(いずれも東京美術)、『偽装された自画像-画家はこうして嘘をつく』(祥伝社)、『代表作でわかる印象派BOX』(講談社)、訳書に『ゴーガン』(西村書店)など多数。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?