「こども時代は本当に短いものです。長い人生のほんのひととき。なのにプリンのカラメルソースみたいに他の部分とはちがう特別な存在です」――。
近年、『スナックキズツキ』(主演 原田知世)や『僕の姉ちゃん』(主演 黒木華)などが相次いでドラマ化されたことでも話題の益田ミリさん。
6月15日に刊行される『小さいわたし』(ポプラ社)は、益田さんの4年半ぶりとなる書き下ろしエッセイ。自身の「短くて特別なこども時代」を、こども目線で描いている。みずみずしく、ユニークで、読んでいてなつかしい感じがする。
本書を紹介したトピックス「短いこども時代の思い出。『小さいわたし』はこんな毎日を生きていた。」はこちら。
BOOKウォッチでは、こども時代のかけがえのない一瞬を切り取った57のエピソードから、4つのエピソードを【試し読み】でお届けしていく(全4回)。
1回目は「仲良しのひらがな」。「似ている同士は仲良しのお友達」という発想が新鮮。先生、黒板、チョーク......。小学1年生の自分が見ていた教室の風景が、ふと思い出されるだろう。
(以下、本文より)
仲良しのひらがな
国語の授業でひらがなを習う。
「こう書いて、こう書いて、ここはぐるぅーっと」
先生が黒板にお手本を書いて見せてくれる。
白いチョークで、大きく、ゆーっくり。
それがとっても楽しそうだから、わたしも大きくなったら先生になって黒板に大きなひらがなを書きたいと思った。
少しずついろんなひらがながわかるようになってきた。そして、ひらがなには似ている同士がいることを発見した。
「き」と「さ」
「は」と「ほ」
「す」と「ま」
「た」と「な」
「う」と「ら」
「ね」と「わ」
「そ」と「ろ」
「け」と「は」
「あ」と「ぬ」と「め」
似ている同士は仲良しのお友達に見えた。
こまったこともあった。
「す」と「ま」は似ているけれど、「す」と「む」も似ている。なのに「む」と「ま」はぜんぜん似ていない。「す」はどっちの子と仲良しなんだろう?
「け」と「は」はとても仲良し。でも「は」は「ほ」とも仲良し。なのに「け」と「ほ」はちょっと遠い。このふたりはあんまり仲良くないのかもしれない。
だれとも似ていない子もたくさんいた。
「み」や「ふ」や「ゆ」や「や」や「を」
ひとりぼっちのひらがなは、とてもさみしそうに見えた。似ていない子たちは、似ていない子たち同士で仲良しなんだと思うことにしたら安心した。
見るもの聞くものすべてがはじめて。おとなになって振り返ると、いろいろな日があったけど、それでもキラキラして見える。こども時代はそんなものかもしれない。【試し読み】2回目「絵の具をまぜてごらん」もお楽しみに。
■益田ミリさんプロフィール
1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に、エッセイ『おとな小学生』(ポプラ社)、『しあわせしりとり』(ミシマ社)、『永遠のおでかけ』(毎日新聞出版)、『小さいコトが気になります』(筑摩書房)他、漫画『すーちゃん』(幻冬舎)、『沢村さん家のこんな毎日』(文藝春秋)、『マリコ、うまくいくよ』(新潮社)、『ミウラさんの友達』(マガジンハウス)、『泣き虫チエ子さん』(集英社)、『お茶の時間』(講談社)、『こはる日記』(KADOKAWA)ほか、絵本『はやくはやくっていわないで』(ミシマ社、絵・平澤一平)などがある。
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