「世間は、たくさんの人で出来ているが、人とは違う。血が通っていない」
2023年2月15日に発売された、川上佐都さんの小説『街に躍ねる』(ポプラ社)。主人公の小学生・晶の視点を通して、「世間」に対する疑問や戸惑いを、純粋かつ鋭く描き出した物語で、第11回ポプラ社小説新人賞特別賞を受賞した。
小学5年生の晶と高校2年生の達は、仲良しな兄弟。物知りで絵がうまく、面白いことをたくさん教えてくれる兄のことを、晶は誰よりも尊敬している。けれど、兄は他の人とのコミュニケーションが苦手で不登校。さらに、集中すると全力で走り出してしまう癖があり、どうやら他の人から見ると普通じゃないらしいとも感じている。
人と違うということ、他者と関わるということ......子供だからこそ感じる葛藤を真摯に描いた本作は、現代社会を生きる大人たちに新しい視点を与えてくれる。
著者の川上佐都さんに本作で描きたかったものについて伺った。
本作の魅力の1つが、「人と異なるということ」「それに対して向けられる家族のまなざし、世間の見方」がとても巧みに描き出されている点だ。川上さんが、これらのテーマに取り組んだきっかけは何だったのだろう。
川上さん:わたしの周りにも達のようにコミュニケーションが苦手な人たちがいて、同じくらい尊敬できる部分を持っていても、それをうまく他人に伝えることができる人と、そうでない人とで評価が変わることがありました。それが寂しくて、後者が魅力的にみえる物語を書こうと思いました。
主人公の兄、達は弟以外とはうまくコミュニケーションをとれず、高校にも通っていない。そんな彼とは対照的とも言える、学校の友だちがたくさんいて行事も張り切って取り組むタイプの弟、晶の視点で物語は進行していく。
晶は、達のことを慕い特別に思う一方で、達がバイトをしようとしていることを喜ぶ自分についてこう振り返る。
「兄ちゃんのバイトがうれしいのだって、いやな理由かもしれなかった。兄ちゃんが楽しそうなことがうれしいんじゃなくて、バイトして、人と話せるようになって、権ちゃんの言う『コミュ障』じゃなくなるかもしれないことが、うれしいんじゃないか」
達の物知りなところや、絵がとても上手いところを尊敬する気持ちといっしょに、いわゆる人並みのことができるのを望んでしまう気持ちもそこにある。そのリアルさが、私たち読者にも1つの疑問を投げかけてくる。なぜ、世間の評価に沿った行動を求めてしまうのだろう、と。
達には思考が体の動きに反映されてしまう癖がある。川上さんは、「他人には突拍子もない行動に見えても、本人にとってはすべてに意味やきっかけがあると考えられるように意識して書きました」と語る。
さらに、特別賞受賞後にまるごと1章分加筆されたのが、2人の兄弟の母視点で語られる第2章「朝子の場合」だ。
川上さん:達が決断するまでの過程や、大人たちが何を考えていたかなど、第1章では見えなかった面を書き足しました。晶の「お兄ちゃんフィルター」がとれた達なので、少し冷静で、より世間を意識した語りにしています。社会人も経験して他人の評価にも触れてきた分、朝子は達の行動や考えが分からないだけでも不安で心配で、その中で親としての選択をしなければならないのはひどく難しいことだと書きながら思いました。
学校には毎日通うべき、他人と円滑にコミュニケーションをとるべき......自分が誰かに、ときには自分自身にそんな「常識」を課してしまい、疲れてしまったとき。この本のページを開けば、それらを疑う少しのスペースが心に生まれるはず。『街に躍ねる』には、そんな不思議な力がある。
■川上佐都さんプロフィール
かわかみ・さと/1993年生まれ。神奈川県鎌倉市出身。今作で第11回ポプラ社小説新人賞特別賞を受賞しデビュー。
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