文章表現の幅を広げたいなら、語彙力を伸ばすといい? でも、いくら難しい単語を知っていても使いこなせなければ意味がない。
言葉を使いこなすために学びたいのが「レトリック」だ。作家のながたみかこさんいわく、レトリックを一言で説明すると「文章を魅力的に表現するための技法」。「比喩」「擬人法」「倒置法」などは、国語の授業で習った記憶のある人も多いのではないだろうか。
実は、学校で習うもの以外にもたくさんの技法がある。ながたさんの著書『ふだん使いの文章レトリック たとえる、におわす、ほのめかす!?』(笠間書院)では、35種のレトリックを解説している。今回は本書から、文章にインパクトとユーモアが出る3つのレトリック「誇張法」「極言」「相対論法」を紹介しよう。
■誇張法:出来事や感情を大げさに表現する
「足が棒になる」「目が点になる」など、慣用句には誇張法を用いたものが多い。「耳にタコができる」もその一つだ。摩擦や圧迫を繰り返してできるタコは、実際には音や声でできることはない。しかしそんなことまで起こりそうだと誇張することで、うんざりするほど聞かされていることを表現している。
誇張法なし「何度も聞かされる」
誇張法あり「耳にタコができるほど聞かされる」
誇張法を使うことで、うんざりした感情がより強く伝わってくる。
普段の使い方も考えてみよう。たとえばSNSで料理を投稿する時に、「とても美味しかった」ではありきたりだ。誇張法を使って「頬が落ちるくらい美味しかった」「目玉が飛び出るくらい美味しかった」などと言い換えると、美味しさの程度がより伝わる。
■極言:誇張法をさらに大げさかつ極端にしたもの
誇張のレベルがさらに上がって、「全ての人間はゴミだ」などと、極端に言い切る表現。微妙なニュアンスを切り捨ててしまうので、極言のあとその論拠を述べるか、反対に、考えの筋道を言ってから極言で結論づけるなどして、読み手を納得に導くのが一般的だ。
たとえば、イギリスのテレビドラマ「名探偵ポワロ」にこんなセリフがあるそう。ポワロはイギリスに亡命してきたベルギー人だ。
「イギリスに料理はない。あるのは食べ物だけ」
「ひどい言われようだ」
「肉は焼きすぎ、野菜はゆで過ぎ、チーズは論外。イギリス人がワインを作ったら私はベルギーに帰りますよ」
この例は料理をけなしているが、褒めたい時にも極言を使えるはず。たとえばパスタを食べて一言、「もはやここはイタリアだね」と言えば、どんなに美味しかったかがよくわかる。
■相対論法:他と比べることで、程度を誤魔化したり強調したりする
程度の大きいものと比べて、それよりももっとすごいと強調したり、具体的な程度を言うのを避けたりする表現。たとえば以下のような書き方だ。
相対論法なし「その部屋はとても臭かった。」
相対論法あり「その部屋の匂いと比べたら、ごみ集積場などはどれだけ良い香りかわからない。」
一般的に臭いイメージの「ごみ集積場」と比べることで、間接的に、部屋の臭さの程度を際立たせている。悪いものをより悪いものと比較したが、もちろん、いいものをよりいいものと比べて褒め言葉にすることもできる。
相対論法なし「妻の料理はとてもおいしい。」
相対論法あり「妻の手料理に比べたら、銀座の有名店の料理なんてものはお子様ランチだ。」
こんなことを言われたら照れてしまうかも。ただし、比較する対象をけなすことになるので、実際に使う時には慎重に言葉を選ぶ必要がある。
思ったよりも身近な表現が多かったのでは? 思いを強調して伝えたい時に、ぜひ「誇張法」「極言」「相対論法」を使ってみてほしい。次回は、実は「直喩」と「隠喩」だけではない比喩の種類についてご紹介する。
【目次】
はじめに
1章 喩えを使って言葉にできないことを伝える
2章 極端な表現でユーモアを交える
3章 語や音を繰り返して強く訴える
4章 リズムを整えて詩的に表現する
5章 直接的な表現をさけて推測させる
6章 独特の演出で人の心を捉える
7章 逆の言葉を使い深みを持たせる
8章 曖昧な表現で揺れる心情を暗示させる
9章 一語を複数の意味に使い同音の妙を演出
10章 言葉の位置を変えて意味を際立たせる
11章 音や流れを整えてドラマティックに
12章 先行の文献を生かし説得力を持たせる
引用文献一覧
参考文献
おわりに
■ながたみかこさんプロフィール
絵本や童話などの児童書のほか、一般文芸や作詞など幅広く手掛ける作家。言葉遊びや日本の民話、妖怪などの面白さを子供向けにわかりやすく表現する作品が多い。著書に『日本の妖怪&都市伝説事典』(大泉書店)、『こわくてふしぎな 妖怪の話』(池田書店)、『裏切りの日本昔話』(笠間書院)など。
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