上皇陛下は、皇太子時代に何度も静岡県の「岬」を訪ねていた。そこでなくてはならなかった、ある理由とは?
『地形の思想史』(KADOKAWA)は、日本の地形が生む「空間」の特徴から歴史の背景をひもといた一冊。皇族、宗教、政治など7つのテーマで、カギとなる土地を巡っている。
「第一景 『岬』とファミリー」の主役は明仁上皇陛下。皇太子時代の1968~78年に、静岡県浜名湖に面した半島、通称「プリンス岬」に計8回も訪れたのだという。皇太子妃(現上皇后)美智子さまと、浩宮徳仁親王(現天皇陛下)、礼宮文仁親王(現秋篠宮殿下)、紀宮清子内親王(現黒田清子さん)の三人の子どもたちを連れ、家族で夏の数日間を過ごした。
それまでの皇族は、夫婦は同居していたが、子どもは別居して親以外の手で育てられるのが当たり前だった。明仁・美智子皇太子夫妻が皇族で初めて、子ども全員を自分たちで育て、ファミリーを成立させたのだ。日本全体を見ても、当時は、若い核家族がマイホームに暮らす生活様式が一般的になってきた時代だった。
ただ、ファミリー用につくられていない東宮御所や別邸は、だだっ広く味気なく、警備も厳しかった。皇太子一家には、家族水入らずで過ごす別の空間が必要だったのだ。そこで目をつけたのが、浜名湖の岬にある保養所だった。御用邸に比べればうんと手狭で、三方を海に囲まれているおかげで警備も少なくて済む。一家は夏のたびにここを訪れ、水泳やホタル狩り、花火などを楽しんだ。
最初に岬に宿泊したとき、長男の徳仁親王は8歳で、最後の宿泊では18歳になっていた。ごく普通の夏休みの家族旅行の風景が思い浮かぶ。しかし一家のそばには、皇族だからこその批判や危険が常にあり、「ごく普通」が何よりも難しいものだった。著者の原武史さんは岬を訪れ、そこに残る当時の皇太子一家の思い出をたどっている。
本書ではほかにも、武装闘争集団と「峠」、オウム真理教と富士の「麓」、古代の神話と「湾」など、日本の思想にまつわる7つの地形をクローズアップしている。
【目次】
まえがき
第一景 「岬」とファミリー
上 下
第二景 「峠」と革命
上 下
第三景 「島」と隔離
上 下
第四景 「麓」と宗教
上 下
第五景 「湾」と伝説
上 下
第六景 「台」と軍隊
上 下
第七景 「半島」と政治
上 下
あとがき
新書版あとがき
主要参考文献一覧
■原武史さんプロフィール
はら・たけし/1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学大学院博士課程中退。放送大学教授、明治学院大学名誉教授。専攻は日本政治思想史。98年『「民都」大阪対「帝都」東京──思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ)でサントリー学芸賞、2001年『大正天皇』(朝日選書)で毎日出版文化賞、08年『滝山コミューン一九七四』(講談社)で講談社ノンフィクション賞、『昭和天皇』(岩波新書)で司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『皇后考』(講談社学術文庫)、『平成の終焉』(岩波新書)などがある。
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