「めげず腐らず、花を咲かせた13人の女たちに聞いた『私』の見つけかた。」
本書『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)は、ジェーン・スーさん初のインタビューエッセイ。歴史上の人物の話ではなく、もう少し身近な女の成功譚が聞きたい、女性にはロールモデルが少ない、と思ったことが執筆のきっかけだったという。
自らの手と足で「自分の居場所」を作り出し、「どうしてこの人はこんなにもオリジナリティーがあって、自分の居場所があるんだろう」(「日経xwoman」インタビューより)とスーさんが心惹かれた女性たちに話を聞いている。
ドラマ「逃げ恥」などを手がけた脚本家の野木亜紀子さん、アナウンサーから俳優に転身した田中みな実さんなど、13人が登場。スーさんのエッセイが刊行されるたびに楽しませてもらっている者としては、スーさんが彼女たちのどんな一面を引き出してくれるのかと、興味津々で読みはじめた。
漫画家・一条ゆかりさんは、1949年岡山県生まれ。『デザイナー』『砂の城』『有閑倶楽部』などヒット作は数知れず、「少女漫画の女王」と呼ばれている。デビューから50年以上と知って驚いた。一条さんの受け答えがなんとも痛快で、印象的だったので紹介したい。
一条さんは6人きょうだいの末っ子。父親が事業に失敗し、生まれて3日後に夜逃げをすることになり、「絵に描いたような極貧生活」を送っていたという。幼いころ、絵が上手いと褒められることが嬉しく、「絵を描く場所には、自分の居場所がある。」と思うようになった。
「私はずっと、私のためだけに存在する私の椅子が欲しかったんです」
しかし、小学1年生くらいのとき、母親から漫画をばかにされて「この女は一生許さない」と魂に火がつく。反骨精神が強いのだそうだ。「母をめったくたに、ぺしゃんこにしてやりたかった」という気持ちで描き続け、18歳で雑誌デビューした。
小学校の卒業文集に、将来の夢は「漫画家」と書いたという一条さん。そんなに早くやりたいことを見つけて宣言したのもすごいし、「いまに見てろ」と思いながらやっていたというのも面白い。
スーさんは一条さんの作風について、「常に、『いま』と『リアル』を表現してきた」と書いている。一条さん自身の中にも、きれいごとに対する嫌悪感があるそうで......。
「自分のポリシーにかけて、人が『裏』だと思っていることを100%『表』にして描いてきた気がするの。きれいごとを言うぐらいなら、汚いことを言いたい」
「一条が描く一流の『リアル』には、人の心の清濁(せいだく)もあることを忘れてはならない。」とスーさん。嘘もごまかしもない、まっすぐな言葉に親近感が湧く。
「どんなに嫌な自分でも、いつも真っ正面から自分と闘いたい。『あなたの敵は?』と聞かれたら、今日の私と答えます。一番の味方は、明日の私。明日の私に褒められるように、今日の私と闘うのよ」
「最初から特別で、すべてがお膳立てされていた人など誰もいなかった。」とある。彼女たちが「自分の居場所」にたどり着いてからの姿しか見ていなかったけれども、本書を読んで1人1人のイメージが更新された。
「自己肯定感が低いんです」と言う吉田羊さん、緑の多い地元で子どもを公立校に通わせる辻希美さん、「この経験はしないほうがよかった、近道があった、と思うことはひとつもありません」と言う田中みな実さん......。スーさんは彼女たちの本質に光をあて、鋭い洞察力と巧みな表現力でそれを伝えている。
「私たちと同じように、ままならぬ毎日を騙し騙し生きる女が闘いの庭に植えた一粒の種に絶えず水をやり、芽吹いたら日の当たるところへ苗を移し、少しずつ少しずつ花を咲かせるまでの日々。私が知りたいのは、そういう話だった。」
何者でもない自分に焦りを感じたり、同年代で活躍する同性に嫉妬を覚えたりすることは、わりとよくある。ただ、そこでどうせ私は......と腐ってしまったらもったいない。居場所がないなら作ればいい。闘ったら咲けるかもしれないと、思えてくる。本書はスーさんと13人の女性たちからの、エールのような一冊。
■話を聞いた13人
齋藤薫(美容ジャーナリスト・エッセイスト)
柴田理恵(俳優・タレント)
君島十和子(美容家・クリエイティブディレクター)
大草直子(スタイリングディレクター)
吉田羊(俳優)
野木亜紀子(脚本家)
浜内千波(料理研究家・食プロデューサー)
辻希美(タレント)
田中みな実(俳優)
山瀬まみ(タレント)
神崎恵(美容家)
北斗晶(タレント)
一条ゆかり(漫画家)
本書は、「週刊文春WOMAN」連載を加筆・編集したもの。
■ジェーン・スーさんプロフィール
1973年、東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、ポッドキャスト番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」のパーソナリティとして活躍中。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で第31回講談社エッセイ賞を受賞。著書に『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』『生きるとか死ぬとか父親とか』『ひとまず上出来』『おつかれ、今日の私。』、共著に『OVER THE SUN 公式互助会本』など多数。
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