蒸し暑い夏に欠かせないのが、ブルッと身震いするような怖~い話。毎日読んでも読み切れない、1000以上もの「怪異」の話を集めた『続・日本現代怪異事典』(笠間書院)が、2023年6月23日に発売された。
2018年の『日本現代怪異事典』(笠間書院)の続編で、こっくりさんや口裂け女などメジャーな話を収めた前作と比べて、マニアックな怪異を多く収録している。「窓から首ヒョコヒョコ女」「ヒップホップババア」「三回見ると死ぬ絵」......あなたはどれくらい知っているだろうか。
本書の発売を記念して、7月2日、東京・秋葉原の書泉ブックタワーにてトークイベントがおこなわれた。対談したのは、著者の朝里樹さんとwebムー編集長の望月哲史さんだ。
基本的に顔出しなしで、素性を隠して活動している朝里さん。普段は公務員として働いていて、帰宅後の時間と土・日・祝日を取材・執筆に充てているそうだ。
先述した通り、本書には1000以上の怪異が収録されているが、これでも朝里さんのデータベースのほんの一部にすぎない。インターネット上や書籍などから集めて記録している、膨大な数のテキストファイルがあるのだそうだ。
お気に入りの怪異を望月さんが聞くと、朝里さんは『続・日本現代怪異事典』に収録されている「飛び降り志願の男」を紹介してくれた。
2003年に「Alpha-Web こわい話」というサイトに投稿された話だそう。ある男がビルの窓から飛び降り自殺をしたが、1階の出入口の屋根に引っかかったせいですぐには死ねなかった。霊になった後も自分が死んだことを理解しておらず、もっと高いビルから飛び降りないと完全には死ねないと考えて、さまざまな高層ビルに現れては飛び降りを繰り返すようになった。
「ここまではよくある話なんですが、ある時、1人の生きた人間が、窓のすぐそばで逆立ちをして『飛び降りる方向が逆だ』と言うんです。下はそっちじゃない、と。するとその男は空に向かって飛び降りるんです。それで、今もどんどん宇宙に向かって落ち続けているという話です。突然宇宙が出てくるというスケールの大きさが面白いですよね(笑)」(朝里さん)
この話が投稿されていたサイトは、現在閉鎖されてしまっている。このように、記録しないと見られなくなってしまう怪談や都市伝説はたくさんある。
「LINEやTwitterで新しく生まれる怪異もあれば、たとえば、『ほうきを魔除けにする』という風習は、今ではほとんど忘れられてしまってますよね。そういえば、日常生活でもほうきなんて久しく使ってないなあと思って」(望月さん)
「あと口裂け女も、昔は鎌を凶器にするという話がありましたが、今はあまり聞かないですよね。昔は身近な凶器だったんだと思いますが」(朝里さん)
消えていく怪異もあれば、変化していく怪異もある。朝里さんは、怪異の元ネタがわかる場合はさかのぼって調べて記録しているという。本書のコラムでは、捨てられた人形が電話をかけてくるという話でよく知られる「メリーさん」の、知られざる元ネタも紹介している。
仕事以外の時間はほとんど怪異集めという生活を聞いた望月さんが、「そんなに毎日怪異を集めていて、気持ちが落ち込んだりしないんですか?」と素朴な疑問を投げかけた。すると朝里さんは、「現実で人間に会うよりは......(笑)」と発言して会場の笑いを誘った。普段、仕事が忙しいぶん、「幽霊や妖怪にはロマンがある」「未知の世界に憧れがある」のだという。
そんな朝里さんだが、意外にも、怪異現象に遭ったことはほとんどないのだそう。
「一度、お岩さんが祀られている於岩稲荷田宮神社に行ったら目が腫れたことはあったんですけど、喜んでたらすぐ消えました。自分から寄っていくと怪異は逃げていくんですかね......」(朝里さん)
「来る人のところにはいっぱい来ますもんね」(望月さん)
「逆に、怖がってる人のところによく来るのかもしれないです」(朝里さん)
さらに、以前、霊感があるという人に見てもらったところ、なんと朝里さんには「守護霊がいない」と言われたというエピソードも。全く霊が寄りつかない体質だからこそ、怪異を楽しんで調べられるのかもしれない。
この日、客席の6割ほどは女性で、質疑応答ではいくつも質問する熱心な女性ファンもいた。朝里さんいわく、オカルト系の仕事で一緒になるのは男性が多い一方で、イベントを訪れる怪談ファンには女性が多いのだそう。望月さんは「家族には仕事の話が全く通じない......」とぼやいていたが、もしかしたらみなさんの身の回りにも隠れ怪談ファンがいるかも?
怖いけれど、不思議と気になってしまう怪異の話。この夏は、『続・日本現代怪異事典』でひんやりしてみては。
■朝里樹さんプロフィール
あさざと・いつき/怪異妖怪愛好家・作家。1990年、北海道に生まれる。2014年、法政大学文学部卒業。日本文学専攻。現在公務員として働く傍ら、在野で怪異・妖怪の収集・研究を行う。著書に『日本現代怪異事典』(笠間書院)、『日本のおかしな現代妖怪図鑑』(幻冬舎)、『玉藻前アンソロジー 殺之巻』(文学通信)など。
■望月哲史さんプロフィール
もちづき・さとし/2012年から月刊ムー編集部に勤務し、現在は公式サイト「webムー」編集長を務める。ムー公式グッズやコラボツアーなど他業種とのコラボ企画も担当する。
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