2023年8月11日に最新作『リボルバー・リリー』が公開される、日本を代表する映画監督の一人・行定勲さん。その映画作りの核を、「女優」という側面から明かした著書『映画女優(ヒロイン)のつくり方』(幻冬舎)が、2023年7月26日に発売された。
本書から、2014年の映画『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』の主演を務めた芦田愛菜さんとのエピソードをご紹介しよう。
当時8歳の芦田愛菜さんは、すでに天才子役として名をはせていた。ところが行定さんいわく「初めて逢った芦田愛菜は、ただの子供だった」。面接では緊張して行定さんの顔を見ようとせず、終わると「ママー!」と走っていく。「想像以上に繊細で、静かで、あまり喋らない」。すでに起用が決まっていただけに、不安があったという。
ところが、次の衣装合わせではすでに別人だった。明確に役柄のイメージがあって、「こっこっぽい・こっこっぽくない」でどんどん衣装を選んでいく。「8歳の女の子とスタイリストの間でもうコミュニケーションが成立していた」。そして台本の読み合わせでは、台詞を全部覚えてきていた。なんと台本を500回も読んできたのだと言う。
「なんで、そんなに読むの?」
「あ、私、台詞覚えが悪いんです」
台本全てを完璧に自分の中に入れないと演じられないという。お母さんと一緒に暗記するように読んでいるそうだ。
撮影でも絶妙なタイミングで涙を流し、天才ぶりを発揮する。あるシーンの練習で大量の涙を流した芦田さんを見て、行定さんはひらめいてこんな提案をした。本番では涙を流さないで、泣きたいんだけど我慢して、怒りを心の中に溜め込んでみて、と。
そして本番。芦田さんは涙を我慢しながら、怒りと反発がみなぎる顔を見せた。その顔は、泣いている顔より何倍もよかったという。
タイミングよく泣く演技ができたら、本人にとっては達成感があるかもしれないが、「泣けない」という顔、涙を我慢する顔には、その上を行く美しさがあると行定さんは言う。
女優が涙をこぼすシーンは美しい。だが、それ以上のものが見たい。
「美しさと醜さが同居したヒロインを撮る」ことを一つのテーマにしているという行定さん。当時8歳の芦田さんから大御所・吉永小百合さん、技巧派の松岡茉優さんからなかなか心を開かなかった沢尻エリカさんまで、どんな女優に対しても、まだ見ぬ顔を引き出そうと果敢に挑んでいく。
さらに本書には、『リボルバー・リリー』の制作秘話もたっぷりと書かれている。ロシアのウクライナ侵攻が世界を揺るがす今、「人殺し」の映画を作る葛藤と、込めたメッセージとは。そして、綾瀬はるかさんが演じるのは「かつて3年間に57人も殺害した女性スナイパー」。彼女は、ある少年を守るために再び戦いに手を染めるのだが、その人物像は綾瀬さんが演じるからこそ説得力が出るのだという。その真意とは。
ほかにも『世界の中心で、愛をさけぶ』の初々しい長澤まさみさん、『リバーズ・エッジ』でまるでプロデューサーのような立ち回りをした二階堂ふみさんなど、知られざる女優の素顔が次々と登場する。パブリックイメージとは違う(あるいはそのままの)舞台裏の姿に何度も驚かされた。スクリーンに映るこの表情を、監督はいったいどう引き出したのか? そんな視点で行定作品を見返したくなる一冊。
【目次】
はじめに――相田冬二[聞き手・構成]
序章 1998年
第一章 2020年から2016年
『劇場』松岡茉優、『ナラタージュ』有村架純、
『リバーズ・エッジ』二階堂ふみ、
そして『ピンクとグレー』夏帆・岸井ゆきの
第二章 2014年から2010年
『真夜中の五分前』リウ・シーシー、
『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』芦田愛菜、
そして『今度は愛妻家』薬師丸ひろ子
第三章 2007年から2005年
『クローズド・ノート』沢尻エリカ、
『春の雪』竹内結子、
そして『北の零年』吉永小百合
第四章 2023年
『リボルバー・リリー』綾瀬はるか
第五章 2004年から2000年、もう一度2020年
『世界の中心で、愛をさけぶ』長澤まさみ、
『GO』柴咲コウ、
そして『ひまわり』麻生久美子
■行定勲さんプロフィール
ゆきさだ・いさお/1968年熊本県生まれ。映画監督、演出家。2000年「ひまわり」で釡山国際映画祭国際批評家連盟賞受賞。「GO」で日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし脚光を浴びる。04年「世界の中心で、愛をさけぶ」が観客動員数620万人を記録。10年「パレード」、18年「リバーズ・エッジ」でベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞、16年「ブエノスアイレス午前零時」「タンゴ・冬の終わりに」の演出において千田是也賞を受賞。
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