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広島で被爆死した「12人の米兵」。その遺族を探し出した、日本人の思いとは。

原爆の悲劇に国境はない

 2023年8月6日で、広島市への原爆投下から78年。当時の記憶を残す新たな本が発売された。

 8月1日に発売された『原爆の悲劇に国境はない 被爆者・森 重昭 調査と慰霊の半生』(朝日新聞出版)は、2016年に広島を訪問したアメリカ大統領(当時)バラク・オバマ氏と抱擁したことで知られる森重昭さんと、妻・佳代子さんの半生を記した一冊。朝日新聞編集委員の副島英樹さんが聞き手となって、貴重な語りを書き起こした。

 森さんは長年、原爆投下で犠牲になった米兵捕虜12人の慰霊に尽力してきた。

 被爆したのは8歳の時。爆心地から2.5km離れた橋の上にいて、爆風で川の中に落ちた。幸いやけども傷も負わなかった。キノコ雲が太陽をさえぎり、真っ暗でだんだん寒くなっていったという。

 森さんは被爆直前に、爆心地近くの済美国民学校から地元の学校に転校していたおかげで命が助かった。済美には中国憲兵隊司令部があり、そこに米兵捕虜が収容されていた。その中の1人が、済美国民学校の校庭で被爆死していた。

日本人の小さな遺体の中に、大きな白人の遺体があったので、すぐわかりました。校長の書いた手記を見て、中国憲兵隊司令部から逃げてきたということを知りました。

 被爆者に敵も味方もない。その一心で、森さんはサラリーマンとして働くかたわら、12人の米兵捕虜が犠牲になったことを突き止め、全員の遺族を探し出した。14年間手紙を出し続けて15年目に返事が来た人もいたという。森さんを突き動かし続けたのは、「米兵は敵ではなく人間。心配している家族がいるはず」「何も知らされていないのだから、私が知っている情報を教えよう」という思いだった。

 同じく被爆者の佳代子さんと二人三脚で活動してきた半生を、余すことなく本書で語っている。再び「核の脅威」が高まっている現代に森さんが訴えたい、核廃絶への思いも収められている。

【目次】
プロローグ
第1章 8歳で見た地獄絵図
第2章 執念の調査
第3章 オバマ大統領広島訪問
第4章 慰霊の半生
第5章 戦争の傷は続いていく
第6章 二人三脚――妻・佳代子氏の思い
エピローグ
解説に代えて
付録 バラク・オバマ米大統領による演説

■森重昭さんプロフィール
もり・しげあき/1937年、広島市生まれ。中国憲兵隊司令部そばの済美国民学校に入学。8歳のとき、広島市の己斐町で被爆。一命を取り留める。中央大学卒業後、山一證券、日本楽器製造(現在のヤマハ)に勤務しながら、警防団が己斐国民学校で2万人の遺体を焼いたという証言の真否を確かめるため、被爆調査を開始。のべ1000人以上に聞き取り調査をした結果、米兵捕虜12人の被爆死を知る。2016年5月27日、現職米大統領として初めて広島を訪れたバラク・オバマ大統領の原爆慰霊碑へ献花の式典に招待され、オバマ氏と抱擁する映像が世界中に配信された。菊池寛賞(2016年)、日本記者クラブ特別賞受賞(2017年)。著書に『原爆で死んだ米兵秘史 ヒロシマ被爆捕虜12人の運命』(光人社NF文庫)、訳書に『爆撃機ロンサムレディー号』(トーマス・カートライト著、森重昭、福林徹、ポール・S・サトー共訳、NHK出版)がある。

■森佳代子さんプロフィール
もり・かよこ/1942年生まれ。3歳のとき、爆心地から4.1キロの草津浜町(現・広島市西区)の自宅で被爆。ノートルダム清心中学校・高等学校からエリザベト音楽大学声楽科に進学。卒業後、岡山の清心学園へ赴任。長年にわたり音楽教諭や教会聖歌隊の指導を務め、爆撃犠牲者のためのスピリチュアルコンサートの開催にも携わってきた。被爆者だった父・増村明一(めいいち)氏は広島市議として被爆者援護の充実に尽力した。

■副島英樹さんプロフィール
そえじま・ひでき/朝日新聞編集委員。1986年4月、朝日新聞入社。広島支局、大阪社会部などを経て、1999年4月~2001年8月にモスクワ特派員、2008年9月~2013年3月にモスクワ支局長を務め、米ロの核軍縮交渉の取材なども担当した。核と人類取材センター事務局長、広島総局長など歴任。2019年12月にゴルバチョフ元ソ連大統領と単独会見した。著書に『ウクライナ戦争は問いかける――NATO東方拡大・核・広島』、訳書に『ミハイル・ゴルバチョフ 変わりゆく世界の中で』(ともに朝日新聞出版)、『我が人生―ミハイル・ゴルバチョフ自伝』(東京堂出版)、共著に『ヒロシマに来た大統領――「核の現実」とオバマの理想』(筑摩書房)など。


※画像提供:朝日新聞出版


    
  • 書名 原爆の悲劇に国境はない
  • サブタイトル被爆者・森 重昭 調査と慰霊の半生
  • 監修・編集・著者名森 重昭、森 佳代子 語り / 副島 英樹 編
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2023年8月 1日
  • 定価1,980円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・176ページ
  • ISBN9784022519276

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