何歳でも、どこにいても、転機はいつどんなかたちでやってくるかわからない。一人ひとりに物語がある。
新連載【人×しごと×物語】では、いろいろあきらめたくないけど出遅れた感じもあって、もやっとしている40歳の編集部員・Yukakoが、さまざまな分野の第一線で活躍している人々に「しごと」や「人生」のあれこれをお聞きしていく。
第1回は、異業種から絵本作家に転身した鈴木のりたけさん。あるあるなピンチを解き明かした『大ピンチずかん』、人生の紆余曲折を描いた「しごとへの道」シリーズなど、子どもも大人も夢中になれる作品を数多く生み出している。のりたけさんの物語を、オンラインでお聞きした。
――私はいま40歳なのですが、結構なところまで来たけどこのままでいいのかという思いがあります。
のりたけさん(以下略) 僕ももやもやしていますけどね。絵を描くことにすごく時間がかかるから、もっとうまくやれないかなと。新作の「しごとへの道」シリーズも、人の思いをガッツリ描きたくて、これを突きつめたらオンリーワンになれると思ってやってきたんですけど、体はボロボロ(笑)。
――ハードな毎日を想像します。毎日の生活リズムはどんな感じですか。
7時ごろに起きて、新聞をゆっくり読んで、家中に掃除機をかけて、ラジオ体操をして、筋トレとストレッチをして、YouTubeでテニスの動画を観る。そのあと10時半から夜6時まで、絵を描く作業をワーッとやります。
――新聞からアイデアを得ることも。
そうですね。気になった記事を写真に撮ったりメモしたり。子どもたちとしゃべっていておもしろかったこともメモします。おもしろいことをキャッチするアンテナは、いつも立った状態にしておきたいですね。
――プロフィールを見ると、JR東海に新卒入社して、その後グラフィックデザイナー、絵本作家とありまして。それぞれがどうつながるのか、どんな道をたどってきたのか、気になります。
僕は静岡県浜松市出身で、浜名湖の奥の田舎で育ちました。田んぼや崖を走り回って、遊ぶことに夢中な子どもでしたね。一方で優等生の面もあって、自分で評価するのも難しいんですけど(笑)。小学校では児童会長、中学校では生徒会長をしていたので、目立つほうだったかもしれません。
結構口が立つので、このころから「弁護士になりたい」と言っていました。ただ、進学先を選ぶときに、将来の職業が限定されない学部がよくて、一橋大学の社会学部に一浪して入りました。でもそこで息切れして、バンド活動ばかりしていましたね。
自分が本当はなにをやりたいのか、就活中もまだわかっていなくて。JR東海から内定をもらって、研修で新幹線を運転したこともあるんですけど、肌に合わなくて1年9か月ほどで辞めてしまいました。
その当時DTP(デスクトップパブリッシング:パソコンで印刷物のデータを制作すること)が流行っていて、もともと雑誌が好きだったので、雑誌づくりをはじめました。一人で企画も取材もテープ起こしもやって。お金がなくなってきたころに広告制作プロダクションに入れてもらって、グラフィックデザイナーとして馬車馬のように働く日々を8年ほど続けました。
――グラフィックデザイナーになるまで、切り替えが早かったですね。
もやもやする時間が長ければ長いほど、決断しにくくなるので。「お前、器用貧乏になるよ」と言われていましたけど、いろいろなことに手を出したくなる性格なのかもしれないです。
――どこで絵の勉強をされたのかと思ったら、じつは独学なのだとか。
教わったことはないですね。グラフィックデザイナーのころに先輩から「絵うまいから、本気でやってみたら?」と言ってもらって。職場にあった大量のデザインの本で、ハイセンスなイラストを浴びるように見ていました。自分で学んだことは大きかったですね。
――いつからでも道はひらけるという、可能性を感じる話ですね。
大人になってからの勉強は、余裕がないとなかなかできない。僕は現場で学んでいった感じです。自然にやっていた自分を磨くということが、自動的に勉強になっていました。学校の勉強はなんの役に立つのか実感が湧かなかったんですけど、ここでは勉強しましたね。
――自分の道をいきいきと歩んでいて素敵です。これは息子からの質問なのですが、勉強のほかにどんなことをしていたら、のりたけさんのようなすばらしい大人になれますか。
僕はすばらしい大人じゃないですけど(笑)。すばらしい大人なんているのかな。ただ、目的を持ってやるべきことをやっている大人は、子どもの目にまぶしく映るのかもしれないですね。
僕の場合、これをしていたからいまがあるとは思っていません。いま目の前にあることを、ちゃんとやるしかないんじゃないかな。イヤイヤやるぐらいならやらないほうがいいし、やりたいことを貪欲に見つけにいったほうがいい。自分から動かないと、楽しいことは見つからないから。
――感性と情熱を指針に進んできたのですね。
根拠のない自信でね。目の前にあることをワーッとやって、結果が出たら、それを自分の中に取り込んで、次の道を選ぶ。瞬発力だけで生きてきた感じです。そういう生き方は打算がないぶん、正直な部分が出るんです。あちこち寄り道をしてきたように見えても、その都度、自分がやりたいことに正直にぶつかってきたから。全部が血となり肉となっていると思うんですよね。
そうすると、自分の道が自然とできてくる。無駄だと思ったこともやってみると、「こんな無駄なことをやってきた鈴木さんの人生」というオンリーワンになるじゃないですか。オンリーワンはやっぱり強い。見てくれている人、おもしろいと思ってくれる人は、必ずどこかにいると思います。
――座右の銘は「おもしろがると世界がひろがる」とあります。おもしろいことを見つける目を持つには、どんなことを心がけたらいいでしょう。
自分の人生を振り返ると、そういうことだったんだなと。おもしろいことはどこか別のところにあって、それを探しにいくということではなく、結局は自分で生み出すものだと思うんですよね。
思考を転換する。人が見ない観点からものごとを見る。この訓練は絶対に役立ちます。自分の内的な世界は自分でいかようにも変えられる。いまここにいる自分とは違う自分を想像して、客観的な視点から、遊び心を持って、世界と接していくのがいいと思います。
――のりたけさんはそれを実行しているように見えます。
そうそう。大人はタブーや世間体を気にするんですけど、言い出したらきりがないから。壁があったらのぞく。箱があったら中を見る。それが基本。そうしないと世界が広がっていかないし、いま目の前にいる人の新しい面にもふれられない。表面的でつまらない世界が莫大に広がっていくだけです。
このミーハーな気持ちを、作品をつくるときも大事にしていて。自分が見て「へぇ!」と思えるか。感動できるか。自分が楽しくなれる瞬間のために、刺激を求めて生きています。これが自分の生きる意味だし、これが人生だと思っているから。
■鈴木のりたけさんプロフィール
すずき・のりたけ/1975年、静岡県浜松市生まれ。グラフィックデザイナーを経て、絵本作家となる。『ぼくのトイレ』(PHP研究所)で第17回日本絵本賞読者賞。『しごとば 東京スカイツリー®』(ブロンズ新社)で第62回小学館児童出版文化賞。第2回やなせたかし文化賞受賞。『大ピンチずかん』(小学館)で第15回MOE絵本屋さん大賞2022第1位。作品に「しごとば」シリーズ(ブロンズ新社)、『す~べりだい』『ぼくのおふろ』(PHP研究所)、『ねるじかん』(アリス館)他多数。千葉県在住。2男1女の父。座右の銘は「おもしろがると世界がひろがる」。
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