毎日新聞校閲センターから、新聞記事を日本語の間違いからいかに救うか、涙ぐましく日夜奮闘を続けている最前線を綴った本が続けざまに出た。『校閲至極』と『校閲記者も迷う日本語表現』の2冊だ。いずれも、現役の校閲記者の実体験を赤裸々に綴っており、日本語表現の見本ともされる新聞記事の薄氷を踏むような現場を垣間見ることができる。
評者の経験からも、「校閲」という仕事は、する方もされる方も精神的な負担は大きく、場合によっては感情的な軋轢に発展することさえある。1冊目のタイトルには、そうした思いも込められており、出稿側の記者や外部筆者との緊張したやり取りが、時にユーモアを交えながら表現される。
校閲記者のプライドも随所に顔をのぞかせ、一般になじみの薄かった校閲の意味と名前を一気に有名にしたテレビドラマ『校閲ガール』(日本テレビ系)の主人公を取り上げた最初の章などは、校閲記者が仕事以外の場面でも、漢字や日本語表現の間違いから気持ちが離れることができないビョーキに陥っていることがわかる。
また「耳障りのいい」「不要不急以外の外出」など、新聞記事に掲載されかけ、すんでのところで正しい表現に変わった例も出てくるが、いったん活字になってしまうと、なにが間違っているのか、すぐには気づかない例も紹介される。自分の日本語リテラシーの能力についても考えさせられた。(読者のみなさんは、上の二つの間違いがわかりましたか?)
『校閲記者も迷う日本語表現』の方は、ネット時代が加速した日本語表現の揺れ、あるいは若者を中心とした新しい使い方を、許容できるかどうか読者にネット上でアンケートを取りながら、新聞記事でどのように表現していくかについて考えたものだ。
「固定概念」「注目を集める」など、新聞でも当サイトでもしょっちゅう目に留まる表現は、本来の日本語規範からは外れているのだが、これを認めるかどうかという指摘も本書ではたびたび出てくる。評者は外国人留学生に日本語を教える授業もしていて、教科書とは違う表現が頻出する日常について質問を受けてタジタジとなるときがあるが、本書を読んで大いに参考になった。
言葉は生き物と言われるなか、日本語の「現在形」を考えるうえでも、自身の日本語能力を再点検するうえでも最良の2冊といえる。
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