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『羅生門』で脳内リセット?  文学の"効能"を脳科学で解き明かす

文學の実効

 物語を読むと心が動く。「面白い」「癒された」「感動した」......さまざまな感情が引き起こされるが、いったい何がそうさせているのだろうか?

 文学を読むとき、人の脳内では何が起こっているのか。神経科学と文学、2つの学位をもち、スタンフォード大学でシェイクスピアの講義を担当しているアンガス・フレッチャーさんが、『文學の実効 精神に奇跡をもたらす25の発明』(CCCメディアハウス)でそのメカニズムをひも解いた。


 本書では、『イリアス』『神曲 地獄篇』『ゴッド・ファーザー』などの世界文学の名作を神経科学で読み解き、「勇気を奮い起こす」「怒りを追い払う」「心を解放する」など25の"効能"を紹介している。

 たとえば、芥川龍之介『羅生門』には、「頭をリセットする」効果があるそう。

■自分の頭のなかに、信頼できるものなどあるのか?

読み手は、『羅生門』の冒頭で語り手の言葉を信用し、物語の途中でそれを修正されると、その語り手の言葉を信用する。読み手が疑いを抱くのは、むしろ自分の脳である。語り手の最初の言葉を誤って受け入れてしまったことに気づき、こう思うようになる。「自分はほかに、どんな間違った情報を受け入れているのか?」

 悲劇の傑作、シェイクスピアの『ハムレット』には、「苦悩を癒す」効果があるという。

■死を受容する脳のプロセス

ハムレットは瞬く間に罪悪感から解放された。それを見て、ハムレット自身が軽蔑する陳腐な悔やみの言葉と同じように、これを噓っぽいと感じる人もいるかもしれない。だが、他人に反射された自分の苦悩を目にすると、誰の脳でもこういうことが起きる。

 この1冊で、紀元前2300年のメソポタミアから現代文学までを解説。科学的な分析を、専門知識がない読者にもわかりやすく解説する一方で、まさに文学的な語り口で、読みものとしても楽しめる。通読すれば、"効能"を実感しながら、濃い読書ができるようになりそうだ。

【目次より】
はじめに 創意の天空
序章 失われたテクノロジー
第1章 勇気を奮い起こす
第2章 恋心を呼び覚ます
第3章 怒りを追い払う
第4章 苦しみを乗り越える
第5章 好奇心をかきたてる
第6章 心を解放する
第7章 悲観的な考え方を捨てる
第8章 苦悩を癒す
第9章 絶望を払いのける
第10章 自分を受け入れる
第11章 悲痛を撃退する
第12章 人生を活性化する
第13章 あらゆる謎を解決する
第14章 自分を高める
第15章 失敗から立ち直る
第16章 頭をリセットする
第17章 心の安らぎを手に入れる
第18章 創造力を育む
第19章 救いの扉を開く
第20章 未来を書き換える
第21章 賢明な判断を下す
第22章 自分を信じる
第23章 凍りついた心を解かす
第24章 夢の世界を生きる
第25章 孤独を和らげる
終章 明日を発明する

■アンガス・フレッチャーさんプロフィール
Angus Fletcher/オハイオ州立大学が主宰する、物語研究に関する世界有数の学術シンクタンク《プロジェクト・ナラティブ》の教授。神経科学と文学という2つの学位に加え、イェール大学で博士号を取得。スタンフォード大学でシェイクスピアの講義を担当しているほか、小説や詩、映画、演劇の科学的仕組みに関する2冊の著書、同業者による審査を受けた多数の学術論文を発表している。その研究は、アメリカ国立科学財団、アンドリュー・メロン財団、映画芸術科学アカデミーの支援を受けており、ソニー、ディズニー、BBC、アマゾン、PBS、NBC/ユニバーサルの各種プロジェクトの物語コンサルタントや、Amazonオーディオブックの『Screenwriting 101: Mastering the Art of Story(シナリオの基礎 物語の技術を習得する)』の著者兼ナレーターを務めている。

■山田美明さんプロフィール
やまだ・よしあき/英語・フランス語翻訳家。訳書にウォルター・アルバレス『ありえない138億年史』(光文社)、グレゴリー・ザッカーマン『シェール革命』(楽工社)、ダグラス・マレー『大衆の狂気』(徳間書店)、レベッカ・クリフォード『ホロコースト最年少生存者たち』(柏書房)などがある。


※画像提供:CCCメディアハウス


   
  • 書名 文學の実効
  • サブタイトル精神に奇跡をもたらす25の発明
  • 監修・編集・著者名アンガス・フレッチャー 著、山田 美明 訳
  • 出版社名CCCメディアハウス
  • 出版年月日2023年3月30日
  • 定価4,950円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・752ページ
  • ISBN9784484222318

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