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1度のミスで3721億円の損失 ゾッとする「ヒューマンエラー」防ぐには

ヒューマンエラーを防ぐ知恵 増補版

 どんなに技術が進歩しても、事故やミスは発生する。軽い不注意から死亡事故まで、人類を悩ませ続けてきた「ヒューマンエラー」。いったい、どのようにすれば防げるのか――。

 2023年5月2日に発売された行動メカニズムの専門家・中田亨さんの新著『ヒューマンエラーを防ぐ知恵 増補版』(大和書房)は、ロングセラーとなった2007年の単行本を文庫化したもの。事故に至る過程だけでなく「発生しやすさ」の構造に目を向けることで、ヒューマンエラー防止のための理論を考察した1冊だ。

 今回は、本書に掲載されている「ヒューマンエラー」の典型的な事例を紹介する。

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61万円が1円になった誤発注事件

 2005年に起きた「ジェイコム株大量誤発注事件」は、日本で最も話題になったヒューマンエラーの一つだ。この事故は、証券会社の担当者が、注文する株価と株数とを取り違えて「一株を単価六一万円で売る」 と入力すべきところを、「六一万株を単価一円で売る」としてしまったというもの。額面通りすべてが実行されれば、3721億円の損失を生み出す取引だ。

 人間が数字の桁や記入場所を間違えるのはあらかじめ想定されていたことで、当然、コンピュータシステムの設計者たちもさまざまな安全措置を講じていた。この事故でも、コンピュータが「この注文の六一万株は異常に多い」と自動的に判定して操作者に警告を出したといわれている。ところが、コンピュータによる警告は事故を防げなかった。

 厳密なチェックを重ねているはずの医療現場でも、ヒューマンエラーは起きる。1999年、横浜市立大学病院で起きた患者取り違え事件はその典型例だ。これは、心臓を手術する予定の患者と、肺を手術する予定の患者を取り違え、それぞれの健康な心臓と肺を手術してしまった、というもの。病院の忙しさの中で患者の取り違えが発生し、そのまちがいに誰も気づかず、そのまま手術を実行してしまったのだ。

 中田さんによれば、これらの事例は、現場の人間の「うっかりミス」ではなく、作業をする「現場」を用意した経営陣にも責任があるという。いわば「責任の所在が明確に割り切れないもの」であり、ヒューマンエラーへの対処には、その場しのぎではない柔軟な対応が必要とされるという。

 では、具体的にはどうすればいいのか。本書の第5章では、すぐに役立つ実践的なテクニックの一端を、身近な事例などを題材に問題形式で紹介している。

【目次】
第1章 ヒューマンエラーとは何か
第2章 なぜ事故は起こるのか
第3章 ヒューマンエラー解決法
第4章 事故が起こる前に......ヒューマンエラー防止法
第5章 実践 ヒューマンエラー防止活動
第6章 あなただったらどう考えますか
第7章 学びとヒューマンエラー
〈増補〉第8章 安全とは誰がどう決める?

■中田亨さんプロフィール
なかた・とおる/1972年神奈川県生まれ。2001年東京大学大学院工学系研究科博士課程先端学際工学専攻修了。博士(工学)。現在、産業技術総合研究所人工知能研究センター 副連携研究室長、中央大学大学院理工学研究科客員教授、内閣府消費者安全調査委員会専門委員。人間の行動メカニズムを情報学・認知科学の観点から解明する研究を進めている。著書に『マニュアルをナメるな』(光文社)、『多様性工学』(日科技連出版)、『即効!卒業論文術』(講談社)などがある。


※画像提供:大和書房

  • 書名 ヒューマンエラーを防ぐ知恵 増補版
  • 監修・編集・著者名中田亨 著
  • 出版社名化学同人
  • 出版年月日2023年5月 2日
  • 定価990 円 (税込)
  • 判型・ページ数文庫判・220ページ
  • ISBN9784759825138

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