企業にとって経営理念とは未来の方向性を示す羅針盤のようなもの。シンプルかつ明確な経営理念があり、それが社員に浸透している会社は、おのずと組織としての足並みが揃い、大きな推進力をもって事業に取り組むことができる。
この経営理念を何よりも大切にしている会社の一つが和歌山県の人気テーマパーク「アドベンチャーワールド」を運営する株式会社アワーズだ。今回は社長の山本雅史氏にインタビュー。著書『だれもがキラボシ 笑顔あふれるテーマパークの秘密』(幻冬舎刊)につづった、経営理念を土台にした経営について、そして理念を掲げてから組織に生まれた変化についてお話をうかがった。
――まず、『だれもがキラボシ 笑顔あふれるテーマパークの秘密』を書かれた経緯について、お聞きしたいです。
山本:率直にお話しすると、まず頭にあったのは人材採用をする際、弊社に興味を持ってくださった方々に、理念や思いについて知っていただけたり、社員に私たちの今の考え方や方向性を示せる書籍を作れないかということでした。
就職活動をする時って、色々考えるじゃないですか。それで自分探索をやったりとか、自己分析や業界分析をやったりするわけですけれども、私が学生の皆さんと話して感じるのは、働く場所や業界で仕事を選ぶ方が多いんだなということです。でも、それだと自分のやりたいことと選んだ会社がマッチしないことになりやすい。
悩んでいる学生の方々にとって少しでもヒントになったり、考えるきっかけになる本を作りたいという気持ちもありました。
――山本さんは和歌山のテーマパーク「アドベンチャーワールド」の運営会社である株式会社アワーズを経営しています。アドベンチャーワールドは、旅行サイト「トリップアドバイザー」の「旅好きが選ぶ!日本の動物園・水族館ランキング2018」で1位を獲得した人気施設ですが、どのようなテーマパークなのでしょうか。
山本:これが実は難しい質問といいますか、私たちの一番の課題なのですが、自分たちのことを自分たちで説明できないという(笑)。
どういうパークかと言いますと、まずイルカやアシカ、ペンギンなど海の動物のパフォーマンスショーがあって、陸の動物は広大な場所でサファリ形式で見ることができます。あとは、先日生まれた赤ちゃんを含めて7頭のジャイアントパンダがいて、小動物とのふれあいコーナーもあります。あとは小学6年生くらいのお子さん向けの遊園地施設もあります。
特色としては、普通の動物園と比べると、スタッフの数がすごく多くて、お客様と社員の方のふれあいの場面が多くあることだと思います...という風に伝えるとすごく時間がかかるじゃないですか。だから、関東の方に説明する時は「鴨川シーワールドさんとズーラシアさんと上野動物園さんととしまえんさんを足したような感じ」と言っています。
――盛沢山すぎて説明が難しいわけですね。
山本:そうですね。一日で全部回るのは大変だと思います。
――ただ、アドベンチャーワールドは大阪から2時間と、決して立地に恵まれているとはいえません。高い人気を獲得した秘訣は何だったのでしょうか。
山本:ブルーオーシャン戦略で、「私たちでしか作れないものを作る」という目標に向かってやってきた結果だと思います。独自路線でやってきましたが、そこをお客様に評価していただけているのかなという気がしています。
関西圏でも、たとえば大阪の都市部にあるようなテーマパークや動物園、遊園地と同じなら、わざわざ遠くまで時間もお金もかけて行こうということにはならないので。
――この本では山本さんが大事にされている「理念経営」が大きなテーマですが、先代社長のお父様やその前のおじい様の時代は「経営理念」はあったのでしょうか?
山本:明文化されているかどうかというところはありますが、おそらくどんな会社にも理念はあると思います。たとえば創業者がそのまま社長をやっているのであれば、その人自身が理念の塊ですから、特に明文化する必要はないですよね。「俺について来い」で済んでしまう。
でも二代目、三代目はそうではなくて、創業者が大事にしてきたことをそのまま大事にしていこうという人もいれば、ガラッと変える人もいます。弊社の場合は前者で、創業者が持っていた価値観をそのまま大事にしていこうという姿勢なので、そこで理念の明文化が必要なわけです。
では、二代目だった父の代はどうだったかというと、理念に通じる言葉がたくさんありました。私がやったのはそれをできるだけわかりやすい言葉で、シンプルに再構築するということでした。今回の本では「理念経営」について書いていますが、私が何か新しい理念を生み出したというわけではありません。
――山本さんが社長に就任以降、先代からの理念を再構築して提示したことで、会社や従業員はどのように変わりましたか?
山本:理念を明文化して提示するだけでは、そんなに大きな変化はありません。理念とは言い換えれば「全員の共通ゴール」ですから、経営者も含めて、会社のメンバーみんながそこに徹底的にこだわってはじめて効果があるんだと思います。
――となると、いかに理念を浸透させるかがカギになるわけですね。
山本:そこが一番でしょうね。でも、上から言って浸透させることはできないと考えています。自然にみんなが大事にするようになってもらうというのが唯一の道で、経営者はそのための仕組みをどう作るかということしかできません。だから、その部分は4年、5年かけて考えながらやってきました。
――どんなことを考えられたのでしょうか?
山本:一番はいかに社員の方々に、理念について考えてもらうかということです。理念自体は明文化して共有したうえで、その理念について各自で考えてもらう時間をいかにたくさん作るか、ですね。これは仕組みでできることなので。
――考える時間を業務の時間に組み込む、などですか?
山本:そうですね。たとえば、理念に基づいた将来のビジョンを皆さんにチームミーティングで考えてもらったり、あとは会社の稟議書や企画書のフォーマットを、理念について考えないと書けないようなものにしたりといったことです。
細かいことですが、あらゆる業務の中に、私たちの理念について考えてもらう機会を多く作っていくようにしています。もちろん、それをやったからといってすぐには浸透しないと思うんですよ。でも、そうやって自分たちの理念や価値観を大事にしたいと思ってくれる人を、焦らずにゆっくり増やしていくことが大事なのかなと思っています。
――理念を定めたことで、スタッフの採用にも変化が生まれたと書かれていました。理念に共感して入社した方々と、それまでの採用方法で入社した方々との違いについてどうお考えですか?
山本:理念が明文化する前と今とで、入社される方々がそこまで変わったとは思わないのですが、入社する段階で私たちの理念をある程度理解してくれている方が増えたとは感じています。
あとは、自分自身が働く目的について自覚的な人も増えました。というのも、私は採用の際、学生の方々に「就職活動は結婚と一緒だよ」というお話をさせていただいています。
離婚の原因でよくあるのが「価値観の相違」というものですが、就職活動も同じで、会社の価値観と、その人それぞれの価値観がある程度合っていないと、離職につながりやすい。だから、私たちが大事にしている価値観をお伝えしたうえで、ご自身が大切にされている価値観や、働く目的について考えていただくようにしています。
(後編につづく)
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