あなたは普段、読書をするだろうか?
その読書はどんな目的があるだろうか?
楽しみのため。仕事や勉強で必要な知識を得るため。ベッドの中で眠気がやってくるのを待つため。どんな目的があっても、それは「正解」だ。でも、楽しみ方はそれだけではない。読書には「自分の知性を試す」という楽しみもあるのだ。
かつて「教養としてこのくらいは読んでおくべき」とされていた本の数々があった(今でも「大学生のうちに読んでおいた方がいい本リスト」「新社会人の必読書」のような形でメディアに顔を出すことがある)。『存在と時間』(ハイデガー)、『監獄の誕生』(フーコー)、『論理哲学思考』(ウィトゲンシュタイン)、『ツァラトゥストラ』(ニーチェ)、『資本論』(マルクス)といった、「難解な本」の数々である。
とかく難しく、何を言っているのかわからず、エンターテインメント的な楽しさとは対極であり、そして人生や人間の本質に触れることが書かれている一方で、おそらく実生活の役には立たない。読まなくても困ることはない本の数々。
ともすると一生縁がないままになりかねないこれらの本を、「今だからこそ挑戦すべき」としているのが『難しい本をどう読むか』(草思社刊)の著者で明治大学教授の齋藤孝氏だ。
難しい本に挑戦して、何とか書かれていることを読み取ろうとする試みによって、脳は鍛えられる。しかし、それ以上に齋藤氏が大切にしているのは、チャレンジすることによって得られる「自信」だ。
知的な優位性はそう簡単には失われません。知力を他人に誇示する必要などなく、努力して高みに登った達成感を得ることこそに意味があります。 「ほとんどの人が読んでいない本を、自分は読むことができた」 難しい本を読むことで、自分に誇りが持てますし、自己肯定感も高まるわけです。(p.15より)
ただ、これまでに幾多の挑戦者たちを挫折させてきたこれらの本は、徒手空拳で挑んでもはね返される可能性が高い。
特に、読み慣れていないと本の中に出てくる「キーワード」の意味がわからず、そこで挫折してしまいがちだ。たとえば『存在と時間』は、ハイデガーによる造語である「現存在」「世界内存在」といったワードの意味がわかっていないと、読み通すことは困難である。
また、その本が書かれた当時の時代背景や、著者がその本を書いた動機を知ることも、難解な名著を読破する助けになってくれる。私たちは知らず知らずのうちに、「現代」を物差しにして物事を見てしまうものだが、何十年、もしかすると何百年も前に書かれた本を理解するためには、こちらの物差しを書かれた当時に合わせなければいけない。そのためには、当時どんな時代で、その時代に著者はどう影響されたのかを知る必要がある。
こうした基礎知識や補助的な知識は、難しい本に挑むうえで不可欠。それを得るためには、遠慮なく解説書や入門書に頼るのが得策だ。これらの本は、読破したい本を読み通す上での案内人になってくれる。
齋藤氏はこのほかにも、
・著者の「好き・嫌い」に注目する
・肝になる部分だけしっかり読み解く
・著者の主張に耳を傾ける
・3色ボールペンで重要度ごとに色分けする
など、難読の名著に立ち向かうための理論的な方法と、ヘーゲルからピケティまで、古今東西の名著の実践的な読み解き方を明かしている。
◇
難解な本だからといって食わず嫌いをせずに読んでみると、共感できる考え方に巡り合ったり、斬新なものの見方を知ったり、思わぬ収穫があるもの。
今年のゴールデンウイークもインドアが主流になりそうだが、こんな時間こそ、これまで手にとってこなかった名著・大著にチャレンジしてみてはいかがだろう?齋藤氏による本書は、それらの難解な本に親しむために、大いに助けになってくれるはずだ。
(新刊JP編集部)
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