私たちの生活においてスマートフォンはなくてはならないものになった。一人でいるときにスマホでSNSを見ながら時間をつぶす。誰かと一緒にいるときでさえも、スマホを操作して話題を探す。スマホが近くにないと不安を抱いてしまう人も少なくないだろう。
そんな私たちの「スマホ依存」に対して警鐘を鳴らす一冊が話題だ。
6月1日に発表された日本出版販売とトーハンの2021年上半期ベストセラーランキング「新書・ノンフィクション部門」で、新書『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン著、久山葉子訳、新潮社刊)が1位となった。
著者でスウェーデン出身の精神科医のアンデシュ・ハンセン氏は、本書の冒頭で、私たち人類の長い歴史の中で、スマホ、フェイスブック、インターネットがあって当たり前の世界はごくわずかだと指摘する。
現代社会における技術の進化のスピードは極めて速いが、実際に私たち人間がその社会に適応できているのだろうか。これまでスマホがなかった時代を生きてきた私たちが、スマホという道具を手にしてわずかな時間の中で、どう変わったのだろうか。
私たちの脳はまるでドラッグのようにスマホを欲してしまう。ふと気づけばスマホのロックを解除し、ウェブやSNSを見る。それは、脳がスマホに対して「何かが起こるかもしれない」という期待を抱き、報酬中枢を駆り立てているからだ。この中には「大事かもしれない」何かがあり、「ちょっと見てみるだけ」とスマホを手に取る。それを1日中繰り返すわけである。
そうして私たちはスマホを無視できなくなる。すると何が起こるかというと、集中力が欠如していくという。人間はもともとマルチタスクが苦手で、一度にひとつのことしか集中できない。スマホが一台あるだけで――しかも、サイレントモードにしてポケットにしまっていても――それに注意が引っ張られてしまう。
著者によれば大学生500人の記憶力と集中力を調査すると、スマホを教室の外に置いた学生の方が、サイレントモードにしてポケットにしまった学生よりもよい結果が出たという。スマホというデジタルな邪魔によって、気が散ってしまう。その結果、集中がしにくい状況が生まれてしまうのである。
とはいえ、今の時代においてスマホを手放すことなど考えられないことだろう。スマホなしでも生きていくことはできるが、この圧倒的な便利さがなくなったら、生活がどう変わるか想像もつかない。
では、スマホによって散漫になった集中力を取り戻すためにはどうすればいいのか。その方策としては、本書では「運動」をあげている。たとえば300人のティーンエイジャーに1週間万歩計をつけた実験では、よく動いた子ほど集中力が高まったという。現代にとって貴重である集中力に、運動は良い効果をもたらすようだ。
では、なぜ運動はいいのか。ハンセン氏の答えは「私たちの祖先が身体を良く動かしていたから」だと述べる。狩りをしたり、自分が追われたりしたときには、最大限の集中力が必要になる。本当に必要なときに、集中力を発揮できるように脳は進化してきた。だからこそ、生き残ってこられた。
とすると、今、私たちが送っているスマホとの生活が、私たちと合わないのかが分かってくるのではないか。
◇
昨年11月の出版以来、発行部数は46万部に達しているという本書は、母国スウェーデンで社会現象ともいえる反響を呼んだという。そして、世界各国で出版が決定し、こうして日本でも大きな話題となっている。
今後もテクノロジーは発展していく。今後より有用なデバイスが登場するまでは、スマホは私たちにとって欠かせないものであり続けるだろう。その中で、ストレスを感じたり、集中力が減退したり、SNSが気になってしょうがなかったりということはあるはずだ。
そうしたスマホがもたらすものの正体を見極めること。それがスマホと付き合っていくための大切な第一歩なのかもしれない。
(金井元貴/新刊JP編集部)
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