リーダーのあり方は時代の変化とともに変わるもの。一時代前の「自分についてこい」という典型的なリーダー像も、現代ではもう時代遅れかもしれない。
多様性の大切さが叫ばれる現代において、その価値観を投影した新たなリーダーシップが求められている。そう語るのが、コロンビア大学博士(教育学)であり、指揮者でもある箱田賢亮氏だ。
16歳でアメリカに渡り、高校教師やオーケストラの指揮者、大学の学部長などといったリーダーを歴任。その経験に基づいて書かれた『プロフェッショナルリーダーの教科書』(あさ出版刊)は、箱田氏がアメリカのコロンビア大学で出会った「最先端の教育理念」を応用した、エンゲージメント型のリーダーシップの形が解説されている。
箱田氏へのインタビュー後編では、リーダーとして何をすべきかについて話を聞いた。今までのリーダー像を一度リセットし、新しいリーダーシップを身につける。今、それが必要なのかもしれない。
(新刊JP編集部)
――箱田さんはアメリカでの経験が長いですが、日本とアメリカでの部下指導やリーダーシップの違いであったり、これらのことについて日本がアメリカから学ぶべきことはありますか?
箱田:アメリカから学ぶべきことですか。この本に書かれていることすべてがそうだったりするのですが(笑)、日本でも若い人はこの本に共感をしてくれて、「こういうリーダーの元ならば成長できそうです」と言ってくれますね。
日本にも、もっと人材が成長できる環境があるといいと思います。その一つが本にも書いた評価方法ですね。日本は成功の定義があいまいで、定性評価、つまり数で表せない評価をしっかり見える化していかないといけない。これから多様性を求めていく中で、それは必須だと思います。
また、おそらく日本の組織って、あまり自分の部下から評価を受けないですよね。
――確かに部下が上司を評価するってまだ珍しいかもしれません。
箱田:アメリカでは、部長の評価を上の人だけでなく、その部下も評価するんですよ。私も毎年上司の評価をしていましたし、楽団時代は指揮者として、楽団員から評価を受けていました。その評価が一番自分を成長させたと思います。時にはすごく辛辣(しんらつ)なコメントが来るときもあって......。でもそのコメントのおかげで成長できたなと。
上からの評価だけになると、どうしても狡賢(ずるがしこ)いやり方で取り入ったりして正確に評価されないということが起こります。だから、全員が下からも評価されるような環境をつくれば、みんなが平等になりますし、パワハラもなくなります。
――それはおっしゃる通りだと思います。360度評価は自分が認識できていない自分が見えてきたりしますよね。また、日本では部下がたくさんいるという人も珍しくありません。ただ、エンゲージメントを引き出すリーダーシップは一人ひとりと向き合うことが必要になると思いますが、人数が多い場合のマネジメントはどうすればいいでしょうか。
箱田:重要なことは、まず個々のメンバーが「上司が自分のことを気にかけてくれている」と思うことなんです。私も80人ほどの楽団員を率いていたときは、毎日一人5分も話せませんでした。そんな中でも名前を呼びかけて挨拶をすると、それだけでもかなり変わるんです。そうなると、「あ、箱田さんは自分のことを知ってくれているんだ」となります。
声掛けの重要性はどのリーダーシップの本にも、そして教育学の本にも書いてありますね。もちろん人数が多いと長い対応は難しいですけど、短い対応ならばできます。私が心掛けていたのは、毎日3人に声掛けのEメールを送るということでした。「この前のリハーサル、すごく良かったよ」というような簡単なコメントです。1日3人ならかかる時間は10分程度。でも、1日3人だと1週間に15人、2週間に30人、ひと月あれば80人全員に送れます。
団員はそれぞれひと月に一回は私からメールが届くわけで、それだけでもかなり違うんです。毎日来たら「しつこい人だな」と思うかもしれませんが(笑)、ひと月くらいだと絶妙なタイミングになるんですよね。
――それはエンゲージメントが高まりますね。
箱田:社長が自分を見ていてくれていると思うと、力になるのでしょう。大勢の部下がいる人は、そういう小さなステップを少しやるだけでも、大きく変わります。
――また、日本のリーダーの問題点としてよく挙げられるのが、リーダーの立場にいる人が自分も手を動かしている、いわゆる「プレイングマネジャー」問題です。
箱田:自分が一番活躍してしまうんですよね。これは私の考えですが、上の立場に立ったら、必ず部下を前に置くべきです。彼らが目立って、成果を上げられるようにする。それがリーダーの責任だと考えています。
私は教育者でもあるので、生徒の成功が一番嬉しい。教育者たる自分にとっての最大の功績は、生徒の功績なんですよね。生徒が成功してくれれば、自分の成功以上に嬉しく感じます。それはやはり責任感から来る感情なのだと思います。リーダーもそれと同じなのではないかなと。
ちなみにこの本でも書きましたが、アメリカには「部下」にあたる言葉がありません。私が日本に戻って来て、「部下って英語でなんて言うんですか?」と聞かれたときに、答えられなくて、ネットで調べてみたんです。そうしたら「Subordinate」とありました。これは「下位の」「従属する」「服従する」という意味なんです。
一方、「部下」という言葉がないアメリカでは、リーダーが部下をなんと呼んでいるかというと「Colleague」です。意味は「同僚」「仲間」ですね。みんなで同じ仕事をするメンバーであり、リーダーはその立場に就いているだけなんです。他に「co-worker」という言葉も使われるんですが、これも意味合いとしては「一緒に働く人」です。いずれにしても、そういうメンタリティーで働いているわけです。
――エンゲージメント型のリーダーシップを実践するためには、これまでの「上司・部下」像を一度リセットすべきではないかとお話をうかがって感じました。その中でこれからリーダーになる人はどんなことを意識すればいいとお考えですか?
箱田:リーダーになる人には、自分の理想のリーダー像があると思います。それはそれで重要なのですが、必ずしも100%そのリーダーになれるかというと、そうではありません。憧れのリーダー像を追いかけても、なれないかもしれない。
だから、試行錯誤をしながら、自分のリーダー像を探してみてほしいんです。この本はもちろん、いろんなリーダーシップの本を読みながら、勉強して試してみてほしい。その中で自分に合うリーダーの形というものが見えてくるはずです。それを目指してください。
ここで大切なのは、他者の意見を聞くことです。特に部下からの意見ですね。部下からのフィードバックに対して恐れずに耳を傾ける。私もそれを実践していました。フィードバックを受けるのは怖いかもしれないけれど、それを受けなかったら成長はできませんから。
――では、最後に本書をどのような人に読んでほしいでしょうか?
箱田:いろいろな方に読んでほしいですが、特に若い方にぜひ読んでほしい。おそらくこの本に対して共感を覚えると思います。そしてこの本を自分の上司にプレゼントしてみてもいいかもしれませんね(笑)。
この本に書いたリーダーシップやリーダー像は、若い方が求めているものだと思うんです。だから、今、リーダーの立場にいる方が、どんなリーダーシップが求められているのかこの本を読んで理解するのもいいと思います。
それから、教師の方々にもぜひ読んでほしいですね。なぜかというと、ここに書かれていることって、アメリカのコロンビア大学が提唱・実践している最先端の教育理論に則っているんです。リーダーシップについて書かれていますが、先生も生徒たちのリーダーと言うべき存在です。生徒たちを成功させるためには、エンゲージさせないといけない。そのためのノウハウが書かれているので、教える立場に立つ先生方にも一読してもらえたら嬉しいですね。
(了)
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