優秀な社員から辞め、会社に貢献する気も能力もない「ぶら下がり社員」ばかりが残る。
人手不足が慢性化する。
心身の不調を訴える社員が増える。
社員同士の人間関係が悪化し、悪口・陰口の類が飛び交うようになる。
見ての通り、これらはどれも「病んだ組織」の特徴である。
もちろん、「ぶら下がり社員」や心身の健康を崩す社員はどんな企業・組織にも何人かはいる。気に食わない同僚がいても、態度に出さず仕事に徹することができる人ばかりでもない。ただ、これらがあまりに増えすぎるのは、やはり業績を残す面でも、組織の継続の面でも障害になってくる。
『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』(上村紀夫著、クロスメディア・パブリッシング刊)では産業医・経営コンサルタントの著者が、これまでに見てきた様々な企業と、そこで働く人々から「病む企業」の特徴を導き出し、対処法を伝えていく。
組織が病むメカニズムの根底にあるものとして、上村氏が指摘するのが「マイナス感情」の存在だ。これは社員がひそかに抱えている「あきらめ」や「逃げ」、「不安」「嫉妬」「おちこみ」といった感情を指す。
おそらく、企業側もマネジメントが機能していれば、どの社員がどんなマイナス感情を持っているかをある程度把握しているはずだ。ただ、そうした実態把握を踏まえて打ち出される施策は、社員が持つマイナス感情に寄り添うものではなく、「プラス感情」を生み出すためのものになりやすいのだという。たとえば、給与の額に不満を持つ社員が多ければ、全社員一律で昇給する、というのが典型的なパターンである。
マイナス感情を解消する施策より、何かを足す施策を導入するほうが手っ取り早く、かつ"時代の流れに乗れている感"を経営・人事層は持つことができる(本書P27より引用)
思えば、何かを足す施策の方が、今ある問題に正面から取り組んで改善するよりも容易だとはいえるかもしれない。特に今は様々な企業が従業員満足度向上のための個性的な取り組み(=従業員にプラス感情をもたらす施策)をして、それがメディアなどで取り上げられる時代。経営サイドからしたら「うちも何かやりたい」となりやすい。ただ、それは社員が抱えるマイナス感情にフタをすることでもある。
企業が社員・従業員のマイナス感情に直接向き合わず、プラス感情をもたらす施策を行うことにメリットがないわけではない。しかし、こうした施策は「当たり前化する」と上村氏は言う。
昇給の例でいえば、給料があがったこと自体はうれしくて、やる気も出る。しかし、その喜びはもって数カ月。上がった額の給料が当たり前になってくると、結局やる気は落ちる。これは他のことにもいえる。リモートワークにノー残業デー、フレックスタイム。どれも、慣れてしまえば当たり前になって、そうなれば一時的に影を潜めていた会社への不満や同僚への悪感情、評価されないことへの恨みつらみがまた顔を出す。こうしたマイナス感情が、個人から組織全体へ広がるスピードは速い。
会社が病むメカニズムは、マネジメント層が従業員のマイナス感情に気づいていないか、気づいていながら正面から向き合わず、「ガス抜き」的な施策でお茶を濁すことから始まるのだ。
◇
人が定着しなくなり、人間関係が悪くなれば業績にも悪影響が出るのは必至。となると、まず目を向けるべきは「マイナス感情」である。
社員・従業員はどんな時に会社にマイナス感情を持つのか。そして、その感情を把握したマネジメント層はどんな対処をとればいいのか。組織を健全な状態に保つために、本書から学べるところは多いはずだ。
(新刊JP編集部)
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