どんな世界でも一瞬だけ輝く人はたくさんいるが、何年も輝き続けられる人はまれだ。
だからこそ、長く第一線で活躍し続けている人の経験や考えには価値がある。運や時代の流れに左右されない普遍的な真実が含まれていることが多いからだ。
『創業&経営の大学 ―トップは人たらしであれ』(さくら舎刊)は、浮き沈みの激しいビジネスの世界で約50年間経営者として活躍してきた竹菱康博氏が、企業のトップとしてのあるべき姿と事業に臨む姿勢を説く。
「ヒト・モノ・カネ」と言われるが、竹菱氏が一番大事にしているのは「ヒト」であり、人対人のコミュニケーション能力である。いかに人を巻き込み、説得し、理論的に伝えるかが経営者の気量であり、いかに「人たらし」たれるかが事業の成否を分ける。竹菱氏が語る「社長のコミュニケーション能力」とはどのようなものか。
コミュニケーションは経営者の必修科目であり、下手だったら学ぶべき、というのが竹菱氏の考えだ。仕事では従業員とも取引先ともコミュニケーションが発生する。コミュニケーションは経営者にとって避けられない仕事の一部なのだ。
ただ、経営者のコミュニケーションはただ話せばいいだけではなく、三つの目的に分けられる。
1.人間関係を築く・・・いいものも悪いものも含めて人間関係。八方美人になることなく、相手にとって嫌なことでも発言する。
2.情報を交換・共有する・・・何気ない会話や一見どうでもいい情報からビジネスチャンスが生まれることは珍しくない。ふとした時に生まれるアイデアを大事にしよう。
3.相手に働きかける・・・相手に働きかけ、働きかけられて、結果として相手が動く。双方向のコミュニケーションを。
自分が今、何を目的としているのかを自覚することが、経営者のコミュニケーションの第一歩となる。毎日の会話を意識的に行うことが大切なのだ。
ただ、経営者もコミュニケーションが得意な人ばかりではなく、コミュニケーションが苦手な人、コミュニケーション能力が低い人もいるという。
1.相手が聞きたい(言いたい)と思うものがわからない
2.感情を喚起できない(理屈によって伝えようとする)
3.話を聞く必要がある人物とは思われていない
これらに心当たりがあるなら要注意だが、コミュニケーション能力は今からでも鍛えることができる。組織を動かし、ビジネスを推進させ、人を巻き込むコミュニケーション能力とはどのようなものか。本書から学び取ることができるだろう。
◇
『創業&経営の大学 ―トップは人たらしであれ』は、コミュニケーション能力だけでなく危機管理能力、決断力、計画力、ブランディング力に至るまで、経営者に必須の能力について、50年にわたる経営者人生から導き出した著者の極意を伝えていく。
経営者が仕事観や経営哲学を語ると、どうしても世間受けのいい美談めいたものになりやすく、失敗談を語る際も、あくまで「成功への土台」として語られる。そのため、聞き手(読み手)からすると綺麗事のように感じられることもしばしばなのだが、本書は一般的な「経営者本」とは一線を画し、竹菱氏の本音が伝わってくる。
「ビジネスにはグレーな部分が必要不可欠」と言い切り、マルサ(国税局)に入られた話、ブルネイ王国の偽王子にだまされたエピソードなどを包み隠さず明かす姿勢は、いいことも悪いことも飲み込む度量によるものだろう。
時代が変わり、ビジネスが変わっても経営者に必要な資質は「人間としての魅力」である。そんなことに改めて気づかせてくれる一冊だ。
(新刊JP編集部)
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