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赤ちゃんポスト「匿名」の壁を越える メディアの美談からこぼれた真実

「『江戸時代は家で産んでいたはずだって自分に言い聞かせていたんです。私にもできるはずって』
 誰にも頼らず、たった一人で理恵さんは子どもを産もうとした。里帰り出産した姉が置いていったベビー服を引っ張り出した。陣痛が始まってバスタオルとビニール袋を、風呂場に備えた。
『おなかがすっごく痛かったんです。すっごく痛かった』」
(『赤ちゃんポストの真実』(小学館)「序章」より)

 2007年、熊本市にある慈恵病院が「赤ちゃんポスト」を開設した。「命を救う」という理念のもと、理解を広げてきたが、実際の運用は一筋縄ではいかないのが現実である。このポストに関する法律も、2020年7月時点で存在しない。良く言えば、慈恵病院の信念にもとづく孤軍奮闘によって、現実には、現行法で扱えずグレーゾーンで運用されている。

画像は、『赤ちゃんポストの真実』(小学館)
画像は、『赤ちゃんポストの真実』(小学館)

『赤ちゃんポストの真実』(小学館)は、大手メディアによる「美談」からこぼれ落ちた「事実」を、地元紙記者がひたすら取材し拾い集めた、執念のルポルタージュだ。

画像は、『赤ちゃんポストの真実』(小学館)より。全144件中、51件では父母などからの手紙が置かれていたことがわかる
画像は、『赤ちゃんポストの真実』(小学館)より。全144件中、51件では父母などからの手紙が置かれていたことがわかる

「匿名」の壁を越え、著者の森本修代(もりもと・のぶよ)さんは細い糸をたどるように、ポストに預けた母、預けられた子を訪ねたという。数多くの医療・福祉関係者や、熊本市長、県知事にもあたった。森本さんは、「あとがき」で以下のように述べている。

「取材を重ねてきたものの、赤ちゃんポストについての結論を私は出すことができない(中略)何が『正しい』のか分からない。答えがわからない問いだからこそ、さまざまな立場の人間が繰り返し考え続ける必要があるのではないか、と考えた。
 価値観は時代とともに変わっていくものだろう。
 後世、検証する上で同時代の関係者の証言が少しでも役立つのなら、本書を出版する意味もあるだろうと自分を納得させている」
(本書「あとがき」より)

 冒頭の引用に登場する「理恵さん」は、10年近く前、熊本市の赤ちゃんポストを訪ねた1人だ。自宅の風呂場で1人、血まみれになりながら子どもを出産。病院の建物の脇に扉があるのを見つけ、赤ちゃんを置いたという。

 開設されて13年たち、赤ちゃんポストが日本社会に問いかけたものとは何だったのか。「真実」を知ろうとしなければならない。


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