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女と女芸人のはざまで/尼神インター誠子に「B」を聞く(1)

 尼神インターとして人気を博す誠子さんが、このほど、自身のプライベート写真も含めて「B」と向き合ってきた人生を1冊にまとめた。

 新刊『B あなたのおかげで今の私があります』(KADOKAWA)のリリースを前に、BOOKウォッチ編集部では尼神インター誠子さんに、「B」について話を聞いた。ステージで見る誠子さんとは違う一面なのか、それとも、ステージの中の誠子さんそのものなのか、率直な言葉に注目してほしい。

写真は、『B あなたのおかげで今の私があります』(尼神インター誠子 著、KADOKAWA)

優しい人でなければ気づけず、そして、書けないエピソード

 本書には、誠子さんが芸人になる前のエピソードも書かれている。芸人になるための関門、ご家族はすんなりOKしたのだろうか。

―― 塾にも通わせてもらい、大学受験の勉強まっ只中だった誠子さんは、突然お母様に「芸人になりたい」と打ち明けたそうですが、その時の反応は?

誠子 母は、「ええやん、あんたの見た目も活かせるやん」と賛成してくれました。娘の容姿を認識しつつも、なかなか口に出す親も少ないと思いますが、母から出た言葉は、娘の「B」をとてもポジティブにとらえた意見でした。

―― お父様はなんと?

誠子 父の出勤前に話したら「そうか。頑張って。いってきます」と賛成してくれました。

―― お二人ともあっさり賛成してくれたのですね。誠子さんのやりたいことを応援してくれる気持ちがご両親ともシンクロしているようです。実は、ご両親のエピソードでもう一つ気になったことがあります。お亡くなりになるとき、それぞれ、同じリアクションをされたとか。

誠子 父も母も、私が「芸人になってごめんね。ありがとう」と話したら、病床でのリアクションが同じでした。
 右手をあげて、横に振ったのです。まるで「気にせんでええよ」と言っているように。
写真は、尼神インター誠子さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)

―― ご両親とも、まっすぐな愛を持って誠子さんを育ててこられたのですね。誠子さんの優しさが、この本の読後感として伝わってきましたが、その源はご両親譲りなのかもしれませんね。
 この作品には、人の優しさが感じられる感性がなければ、そもそも書けないエピソードが出てきます。中でも、宮子先生の「おにぎり」のお話を、直接教えていただけませんか?

誠子 宮子先生は素晴らしい先生でした。私たち生徒みんなを見てくれている先生でした。良い時も悪い時も。こんな人になりたいと思うような先生でした。
 宮子先生が遠足であのお弁当(おにぎり一個だけ)を持ってきていたのは、こどもながらに衝撃的でした。
 その場にはいなかったですが「きれいなお弁当を持ってこれない子もいる」。そういうことを宮子先生は私たちに話してくれました。このエピソードは、先生の気づかいや優しさだけでなく、逆に、自分はきれいなお弁当を持ってこれる恵まれた環境にいるということも気づかせてくれました。
 「おにぎり一個ですごいやろ!」でギャグで済ましてしまってもいいやりとりを、そうではなく、私たち生徒に、その意味を語ることができる先生でした。勉強だけでなく、こういう言葉は心に残るのですね。
写真は、尼神インター誠子さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)

―― やっぱり、誠子さんは、人の優しさに気づくことができる方だ。

誠子 そんな、恐縮です。ただ、私は、もっと人を見ようと意識しています。その人が言った素の言葉だけじゃなく、心理や気持ちを、もっとくみ取りたいという思いは、常にあります。
 自分でも、反射的に思ってることと違うことを言うこともありますから、言葉と気持ちが逆転していることもあるので、相手の心理まで見たいというのもあります。
 また、モノマネもするので、そもそも人を観察しているのかもしれません。

―― 誠子さんのお話は、言葉のキャッチボールではなくて、気持ちのキャッチボールですね。
 誠子さんは相手をよく見ていらっしゃる。この本のテーマでもありますが、誠子さんが人をよく見たり、逆に、自分がどう見られているかを感じ取っているのは、もしかして「B」とも関係がありますか?

誠子 過去に言葉で自分が傷ついたり、コンプレックスで傷ついたりしたことがあるからこそ、人にはしたくない。と言う思いは強くあります。人にはポジティブなことを言ってあげたいと思っています。

女と女芸人のはざまで

―― 本のタイトルにもありますが、改めて「B」とは何ですか?

誠子 「B」はブスのことなのですが、今は、共に生きてきた自分の一部と言う認識でいます。私の愛着のある一部で、しかも、私は芸人なので、ともに戦ってきた戦友でもあります。
 ブスと言われると「おいしい」んですが、かわいいと言われると「嬉しい」。
 それってすごい現象で、お笑いの現場でかわいいと言われるとモヤっとするし、好きな人と食事に行ってかわいくないって言われると悲しいし。
 言われる状況や人によって、言葉の意味って変わるんやと感じました。そのことを一番よく経験してるのは、実は女芸人じゃないかと思います。
写真は、尼神インター誠子さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)

―― 現場で「かわいい」と言われたら、モヤっとして反応に困りますか?

誠子 本気で言ってるのか、逆にいじってるのか、素直に受け止めれないのです。
 「どこがやねん」とか切り返してしまう。
 本当にほめてくれてるのに素直に受け止めれないときに、女と女芸人が混在してると思うのです。
 これは、芸人でなくても会社で働く女性は、だれしも同じことが言えると思うのです。

―― なるほど。仕事は違えど、ですね。

誠子 男性がいる職場で働く女性の方も多いと思いますから。ある種、女らしさを片隅に置いて、自分としてはしっかり仕事に向き合わないと共に働けないという状況はあると思うのです。この葛藤は女性なら誰しもあると思うのです。

(第2回に続く)
※第2回「B」に見えないあの人の秘密。コンプレックスを持つあなたへ/尼神インター誠子に「B」を聞く(2)



尼神インター 誠子 (あまこういんたー せいこ)
1988年12月04日生まれ。神戸市出身。大阪NSC30期。尼神インターとして活動し、「第32回ABCお笑い新人グランプリ」新人賞(2011)、「第46回上方漫才大賞」新人賞候補(2011年)などの受賞歴を持つ。


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