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「鬼滅の刃」には、日本史のさまざまな暗号が隠されていた!

「鬼滅の暗号」解読の書

 国民的な大ヒットになった漫画「鬼滅の刃」。その秘密を探った本が次々と出ている。本書『「鬼滅の暗号」解読の書』(宝島社)は、日本史の視点から読み解いたものだ。駒澤大学文学部歴史学科教授の瀧音能之さんが監修している。竈門炭治郎と鬼舞辻無惨のモデルを推理するなど、大胆な仮説に満ちている。

 冒頭で、鬼殺隊と鬼との戦いは闇の者同士の戦いだったと書いている。「鬼滅の刃」に登場するキャラクターの多くが社会的マイノリティの人々で構成されているからだ。

 主人公の竈門炭治郎の生家は「ヒノカミ神楽」という厄払いの神楽を代々受け継いでいる。一般社会から離れた場所で技芸を継承する姿は、中世に存在した芸能集団「傀儡子(くぐつ)」と重なる部分があるという。

 また、炭治郎の同期の剣士である我妻善逸と嘴平伊之助は、どちらも「捨て子」だった。時透無一郎は山の民、宇髄天元は忍者の家の出身など、キャラクターに隠された暗号を指摘している。

神話との共通点

 第2章では、ストーリーに隠された暗号を読み解いていく。なぜ人々は「鬼滅の刃」に夢中になるのか? 世界の神話にも共通するストーリーがあるというのだ。「なにかを奪われた人物」あるいは「大事なものが欠けていると感じている人物」が、「失ったものを取り戻すため」あるいは「生命をもたらす霊薬を見つけるため」に日常生活を超えた冒険の旅に出るという英雄譚のストーリーだ。

 「鬼滅の刃」は、家族が鬼によって殺され、鬼にされた妹・禰豆子を人間に戻す治療法を探して、炭治郎は鬼が出没するスポットに出動する。まさに英雄譚と重なる。

 さらに日本神話との共通点を指摘する。炭治郎と禰豆子の男女きょうだいのペアは日本の古代や神話によく見られるパターンだ。邪馬台国の女王・卑弥呼には弟がいて、卑弥呼が祭祀を、弟が政治を取り仕切ったという。きょうだい関係にある男女の首長が「聖」と「俗」をそれぞれ担当する「ヒメヒコ制」と呼ばれる。禰豆子は人と鬼をつなぐ巫女的存在だったと見ている。

 禰豆子のトレードマークは竹の口かせだ。竹や笹は古代から神が降りる神聖な植物とされる。竹は現在も地鎮祭などの神事にも使われている。神聖な竹で結界をつくる。また、禰豆子の衣装にも麻の紋様や市松紋様が使われ、神社の境内を模式化しているという。

鬼舞辻無惨のモデルは平将門

 鬼の始祖であり、物語の最重要人物である鬼舞辻無惨のモデルは誰なのか? 本書は舞台が東京であることから、三大怨霊のひとりである平将門と推理している。

 将門は桓武天皇の曽孫・高望王の孫として生まれ、関東で「新皇」を名乗り、朝廷に反乱を起こした。天慶3年(940)に討たれ、その首は京で晒されたが、その後飛翔して江戸に舞い戻ったという伝承がある。現在も大手町に首を祀った将門塚は残っている。その後、将門の祟りが続き、神田明神に奉祀され、疫病は収まったとされる。

 鬼舞辻無惨のアジト・無限城は異空間に存在したが、その後、地上世界に戻った。3階ほどの煉瓦造りの建物が並ぶ様子から、大手町あたりと推測。当時の大蔵省印刷局によく似た建物が見えるという。こうしたことから無限城は将門の首塚の地下にあった、と書いている。炭治郎の出身地は東京西部の雲取山だ。雲取山には将門が逃走した足跡があるという。

 鬼舞辻無惨のモデルが平将門だとすると、炭治郎のモデルは将門を討った藤原秀郷ということになる。秀郷は俵藤太とも呼ばれ、妖怪退治の逸話がいくつも残っている。別の人物だが、同じ名の炭焼藤太の伝承が東日本各地に残っている。こうしたことから、この2人の「藤太」がモデルになっているのでは、と推理している。

新型コロナウイルスの流行がヒットの要因

 第4章「時代に隠された暗号」では、「鬼滅の刃」が大ヒットした要因の一つとして、2020年の新型コロナウイルスの流行を挙げている。「鬼=死(疫病)」という日本人の伝統的なイメージに、新型コロナウイルスによる世情の不安定が加わったというのだ。

 また、物語の舞台になった大正という時代についても「超格差社会」だったなど、興味深い指摘をしている。

 もちろん作者の吾峠呼世晴さんは、独特の世界観で「鬼滅の刃」を描いたのだろうが、日本史の観点からは、さまざまに符合する事柄があったということだろう。鬼舞辻無惨のモデルは平将門であるなど、非常に興味深い考察に満ちている。

 なお、本書には物語の結末を含むネタバレがあるので、「鬼滅の刃」を読み終えてから手にするのがいいだろう。



 


  • 書名 「鬼滅の暗号」解読の書
  • 監修・編集・著者名瀧音能之 監修
  • 出版社名宝島社
  • 出版年月日2021年1月14日
  • 定価本体1000円+税
  • 判型・ページ数四六判・206ページ
  • ISBN9784299013002

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