数多くの名著を後世に残してきた偉大な文豪たちも、私たちと同じ人間。
小説『こころ』の著者・夏目漱石は、実はメンタルが弱く、落ち込むとすぐ引きこもってしまっていたようだし、日本人初のノーベル文学賞を受賞した川端康成はとんでもない借金王だった、という逸話が残っている。文豪たちも、恋愛に悩み、お酒を飲んで喧嘩もする。
そんな人間っぽいところもあり、破天荒で「どうかしてる」逸話を知ると、難しそうとなかなか手を出せなかった明治~昭和の文豪たちの作品にも手を伸ばしてみようか、という気持ちになるもの。
『文豪どうかしてる逸話集』(進士素丸著、KADOKAWA刊)では、明治時代から昭和までに活躍した文豪たちの「どうかしてる」エピソードを紹介する。
太宰治は自身の著書『人間失格』そのままの人物だ。裕福な家庭で生まれ育ち、上京してからは、左翼活動をやってみては自殺未遂、実家に勘当されては自殺未遂、鎮痛剤中毒になっては自殺未遂と、「文豪=自殺」のイメージを定着させた張本人でもある。
『銀河鉄道の夜』で知られる天才童話作家・宮沢賢治もまた人間臭いエピソードに事欠かない。この宮沢賢治、実はとても意志が弱かったようで、法華経の説話を読んで感銘を受け、「動物食べるのつらい。動物食べるのかわいそう」と思うようになった、21歳のとき、「今年の春から動物食べるのやめます!」と友人宛の手紙でベジタリアン宣言をする。
それが高じて『ベジタリアン大祭』と題した童話まで書いた宮沢賢治だが、「今日私はマグロを数切れ食べてしまいました」「今日は豚肉と茶碗蒸しを食べました」など、特に送る必要もない「今日も誘惑に負けてしまいました」報告を友人に送り続けていたという、なんともかわいらしいエピソードがある。
2002年に野球殿堂入りした俳人・正岡子規もユーモアのある人物。起き上がることもできない病床でロンドンに留学中の夏目漱石に宛てた最後の手紙。その出だしは、
「僕はモーダメニナツテシマツタ、毎日訳モナク号泣シテ居ルヤウナ次第ダ」
「実ハ僕ハ生キテイルノガ苦シイノダ」
と病状の深刻さが伺えるが、その最後は
「ドコロデ倫敦(ロンドン)ノ焼キ芋ノ味ハドンナカ聞キタイ」
と急にロンドンの焼き芋の味が気になってしまう。最期の手紙がこのような締めくくり方だと、漱石も混乱してしまったことだろう。
文豪たちのエピソードの数々を知ると、文豪と距離も縮まり、親深い存在となるはず。本書から、愛すべき文豪たちの楽しい逸話を読んでみてはどうだろう。
(T・N/新刊JP編集部)
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