新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は、私たちに対して様々なものをもたらしている。
この1年間、混乱のさなかで感染症対策が議論されてきた。しかし、その一方で、インフォデミック(情報氾濫)によって、効果が疑わしい対策方法が広がったりといったことも起きている。
今後しばらくはこのコロナ禍が続いていくだろう。しかし、感染症は新型コロナウイルスの他にもたくさんあり、それからも身を守っていかないといけないということだ。
例年だと国内で約1000万人が罹患するインフルエンザをはじめ、結核、はしか、おたふくかぜ、腸管出血性大腸菌感染症(O157)、破傷風。また、日本ではあまり聞かないが、狂犬病、マラリア、デング熱といった感染症もある。さらに、新型コロナウイルスのように未知のウイルスが出てくることもあるだろう。
医学博士で公衆衛生学の専門家である左門新氏による『元WHO専門委員の感染症予防BOOK』(三笠書房刊)は、感染症とは一体どういうものなのか、各感染症の特徴、そして対策方法を図とイラストを交えながら分かりやすく解説してくれる一冊だ。
「感染から身を守る日常生活のコツ」では、対策の基本をイチから教えてくれる。
左門氏によると、個人ができる普段の対策の基本は3つあるという。
・食事や運動、睡眠などで免疫力を高める
・ワクチン接種
・掃除などによる除菌
この3つをきちんとやることで、リスクを半分から3分の1に減らすことができるという。
では、新型コロナウイルスの予防対策はどうすればいいだろう。
ほとんどが接触感染と飛沫感染で広がる。前者はドアノブや手すり、吊り革、エレベーターのボタン、スマートフォンなどが感染源となる。後者の場合、飛沫はおおむね1.5メートルしか飛ばないため、それ以上離れるか、面と向かっていなければ防ぐことは可能。
そのため、左門氏は下記の3つの予防対策をあげている。
・自分以外の人が手で触るものに、直接手指を触れない
・触ったらすぐに手洗いをするか、消毒アルコール小瓶スプレーを携帯し、手指を消毒
・面と向かう相手と1.5メートル以上の距離を置き、それ以内ではマスク着用
また、流行語にもなった「3密」の「密閉」を避けるために、換気を良くしようと思っている人も多いが、左門氏は「間違ったやり方をすれば感染を拡大させます」と訴えている。
日本では窓を開けたり、エアコンを使うことで空気を入れ替えることが「換気」と考えられているが、2020年5月にWHOが出した換気ガイドラインでは、中央換気システムを使って、フィルターを通して空気を濾過して循環させることだという。風流を生じる窓開け換気やエアコンの風が人のいるところに流れることは、感染を広げるため禁止としているという。日本ではこの「換気」の意味を勘違いし、タクシーや電車などの窓開け換気を促すことにつながってしまったのだ。
左門氏は、「三密」の密閉の問題点は湿度にあると述べる。三密状態になると、人の呼気や肌からの水分蒸発で室内は高湿度となり、本来表面の水分が蒸発して感染力をすぐに失う細かい飛沫が、遠くまで長い時間空中を漂流し、感染を広げてしまう。詳細は本書を開いて確認してほしいが、このことから窓開けではなく、空調で適切な湿度(40%~70%)に保つことが大切だ。
また、本書の中では子宮頸がんについても触れている。
子宮頸がん予防接種といえば、副反応として神経障害を大々的にマスコミが取りあげ、政府は予防接種の積極的な推奨をやめてしまったという経緯がある。このため接種率が激減し、WHOは日本政府に早く再開するよう強く勧告している。ところが、政府の副反応調査委員会の「予防接種によるものとは言えない」という報告も、広く公表されていないと左門氏は指摘。予防接種をやめた結果、数年後から子宮頸がんによる死亡者が、現在の年約3000人から、年6000人もプラスして増えてしまうという推定があると警鐘を鳴らす。
本書によれば、子宮頸がんは、ほとんどが男性からウイルスが感染する性行為感染症だという。そのため、欧米では思春期男子全員にこの予防接種を始めているといい、オーストラリアなど一部の国ではその根絶も視野に入ってきているそうだ。
左門氏は,世界から10年以上遅れている予防接種施策、特に子宮頸がんワクチン接種は早急に接種推奨を再開するばかりでなく、男子全員への接種もすぐに始めるべきであると強く訴えている。
基本的なことから、あまり知られていない事実まで、感染症対策について網羅している本書。日本でも6月施行予定の食中毒予防のハサップ、大人がうつべきワクチンや、不妊症や赤ちゃんの形態異常の原因になる感染症、キャンプや海外旅行で気を付けるべき感染症、さらにはペットや家畜からうつる感染症なども説明されており、エビデンスに基づく正しい行動や知識を得ることができる。
これからも感染症との戦いは続いていく。正しく予防をしていくためにも、読んでおきたい一冊だ。
(新刊JP編集部)
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