2019年5月、真打に昇格した落語家・瀧川鯉斗氏。元暴走族総長という変わった経歴を持つ鯉斗氏は、そもそもなぜ落語家を志したのか。
「暴走行為は大いに反省しております。」
と前書きとなる本書の枕にて述べる鯉斗氏は、なぜ落語の世界に入り、10年以上に及んだ修行を耐えて真打になれたのか?『特攻する噺家』(瀧川鯉斗著、ワニブックス刊)は自らの半生を綴る一冊だ。
15歳の頃から暴走族として過ごし、高校は1日で退学。数年後、暴走族を引退し、上京。役者を目指し、役者の養成所に入り、レストランでアルバイトをすることに。このアルバイト先のレストランで後の師匠となる瀧川鯉昇氏の独演会が開催されたのだという。
高座にのぼった鯉昇氏への鯉斗氏の印象は「着物を着た禿げたおじさん」くらいのものだった。しかし、「芝浜」という噺を聴き終える頃には、落語や落語家への見方は一変していた。
たった一人で座布団の上で噺をする。それだけのことなのに、男性も女性も呑み仲間たちも一人で何役も演じる話芸にお客さんは引き込まれていく。そんな鯉昇氏の落語に、心を揺さぶられ、衝撃を受けた鯉斗氏は、鯉昇氏に弟子入りする。
落語家は一人前と呼ばれる真打になるまでに、10年はかかる世界。弟子入りし、見習い期間を経て前座、二ツ目、真打という順番で昇格していく。暴走族時代、暴走する際に「けつまく」という最後尾を走る役で覆面パトカーに追いかけられていた鯉斗氏が、弟子入りし、最初に教わったのは、噺の技術とは関係のない「着付け」だった。まずは自分で着物を着られるようにならないといけないからだ。
着付けの次は太鼓である。
落語や漫才、紙切りなど、さまざまな芸事を1年中楽しめる演芸場である場「寄席」では、各場面に太鼓が鳴らされる。会場の合図の一番太鼓、開演5分前の二番太鼓、終演時のハネ太鼓などである。
「落語家って話す仕事なのによぉ。着付けとか太鼓とかなんなんだよ、めんどくせぇ...」と不貞腐れながらも、「やるしかない」と兄弟子の鯉橋氏の助けももらいながら、修行の日々を過ごす。着付けと着物の畳み方と太鼓の稽古を半年続けて、やっと「まあいいでしょう」と師匠に言ってもらえる。そして、やっと「新聞記事」という噺を一席教わることができたのだった。
現代ではすっかり珍しくなった昔ながらの師弟関係。長く厳しい修行の日々をどのように乗り越え、真打にまでなったのか。テレビやファッション誌など、高座以外でも活躍の場を広げているので、鯉斗氏を見たことのある人は落語ファンならずとも多いはず。本書を読むだけでなく、鯉斗氏をきっかけに、ぜひ落語も聴いてみてはどうだろう。
(T・N/新刊JP編集部)
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