セクハラ、パワハラに加えて、スメハラ、マタハラ、モラハラなどなど、今は誰かが嫌だと感じたら何でもハラスメントになるといっても過言ではない時代だ。
あまり物事を気にしない人は「みんな、もう少し寛容になろうよ」と考えてしまいがちだが、こういう人こそ、気づかないところで誰かを不快にしているのかもしれない。
誰かに迷惑をかけて、かけられて、というのは生きている以上仕方のないこととはいえ、ちょっとした気遣いで誰かを嫌な気持ちにさせることを避けられるなら、それはそれでいいこと。そのうえで、自分が嫌な気持ちにさせられても寛容に水に流す、というのが人生の陰徳というものである。
『それ、やってはいけない! ハラスメント大全』(野原蓉子監修、青春出版社刊)は、誰もがよく知るハラスメントから、「知らなかったけど、これはひどい!」というもの、「このくらいは許してよ・・・」というものまで、実に様々なハラスメントを紹介していく。
たとえば仕事に関係するハラスメントでは、昨年から広まったテレワークで物理的な距離ができたため、ハラスメントはしにくくなった・受けにくくなったように思われるが、そんなに単純なものでもない。
コロナ禍でのテレワークで有名になったのが「リモハラ/リモート・ハラスメント」だ。
リモート会議でモニターに移り込んでしまう自室の様子にいちいちツッコミを入れることで、「今日のビデオ映りはなかなかいいねえ、化粧かな?」「いい部屋だね、今度遊びに行っちゃおうかな」といったセクハラまがいのものから「新人のくせに俺よりいいソファ使ってるじゃないか」などパワハラと捉えられかねないものまである。セクハラもパワハラも、テレワーク下でも健在なのである。
仕事中だということは重々承知していても、お互いに自宅にいるということで、ついつい軽口が出てしまうのかもしれないが、言った本人にとってはただの軽口でも、言われた方はそう思わない、というのがハラスメントの本質だ。
報告書に企画書、レポートなどなど、仕事には「文書」がつきもの。それはテレワークになっても変わらない。
部下から送られてきた文書をレビューしていると、いつもひとこと言いたくなる、という上司が気をつけたいのは、文書に対してありとあらゆるダメ出しをしまくる「テクハラ/テクスチュアル・ハラスメント」だ。
会社によって文書の書き方にはフォーマットがあるもの。ただ、それにならって書いても文章にはどうしても個性が出てしまうもので、その個性は人によっては読んで気持ちが悪いと感じることもある。
もちろん、正当な批判であればいいのだが、毎回「一行見ただけでわかる。却下ね」「学校で文章書いたことない?これひどいよ」とやってしまっては、完全にハラスメントである。「文章が女々しい」「これは男の発想だよ」といった性別に結びつくフィードバックもNG。批判するならどう直せばいいのかわかるように具体的に、が基本だ。
また、ハラスメントはかならずしも上司から部下に、年長者から年少者に、というものでもない。立場が下の者から上の者へ、というハラスメントもある。
テレワークによって、対面で説明する機会が失われた結果、たとえば会社で新しいITツールやシステムが導入された際などに、ITが苦手な年長社員が困ってしまうことがある。困り果てたあげくに、部下や若手社員に使い方を教えてほしいと助けを求めてくることもあるだろう。
相談された方からしたら、忙しい業務の合間に説明の時間を取られるのは、正直わずらわしいかもしれない。ただ、そこで「なんでこんなこともわからないんですか!」「そんなのググってくださいよ」「何度同じことを言わせるんですか!」と言ってしまったら、これはこれで、やはりハラスメント(「テクハラ/テクノロジー・ハラスメント)になりうるのである。
テレワークで人に何かを教えることの難しさは多くの人が感じているところ。ただ、それでも相手への敬意は失わないように接したいところだ。
◇
何に傷つき、何を不快と感じるかは人それぞれであり、だからこそハラスメント対策は難しい。しかし、本書を通してハラスメントの多様さに思いを馳せることができれば、他者への想像力を持つことができるという点で一歩前進だろう。
お互いが快適に過ごすことができる会社、学校、そして社会を作るために、参考にしたい一冊だ。
(山田洋介/新刊JP編集部)
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