世の中どうもうまくいっていない。
コロナ禍への行政の対応もそうだし、私たちの社会の基盤だった民主主義や資本主義の負の側面も目立つようになってきた。ニュースを見ると、毎日のように殺人や虐待といった目をそむけたくなる事件が報道されている。
もちろん、いい方向に向かっていることもあるし、解決に近づいた問題もある。それらは悪いニュースに比べるとインパクトに欠けるため、あまり印象に残らないという側面もある。それでも、一つ問題解決したらもっと大きな問題が複数出てきて、全体として世の中はだんだん悪くなっているという認識は、現代を生きる人の中である程度共有されているのではないか。
悪いニュースを目にすると、私たちは「悪者」を探そうとする。卑近な例では、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えられないことに憤りを感じる人は、不手際や無策の主体として行政をやり玉に挙げるし、子どもを虐待する親は、やはり社会の中で悪者だ。
責任の所在を明らかにすることは大切なことだが、「悪者」を糾弾し、処罰するだけでは、世の中は良くならない。「悪者」その人だけを見るのではなく、「悪者」が生み出されてしまう背景に思いをはせることが必要だ。
彼ら悪者が生み出されるのは、あなたのせいなのです。
『悪者図鑑──なぜ、「悪者」はいなくならないのか』(トキワエイスケ著、自由国民社刊)の冒頭にこんなことが書かれている。犯罪者、サイコパス、パワハラ上司、毒親。世の中で「悪者」とされる人本人に問題があるのは否定できないが、その背景には例外なく社会システムがある。そのシステムに目を向けない限りは、どんなに悪者を罰したところで、世の中はいい方向に向かわない。悪者は社会システムや世の中の仕組みによって生み出されるものだからだ。
そして、システムには私たち一人ひとりが加担している。
新型コロナウイルスの感染拡大を止められない原因の一つに行政の不手際があるのはまちがいないが、采配を振るっているのは、私たちが選挙で選んだ政治家だ。どんな人も不勉強や無知や傍観によって、悪人を生み出すシステムに手を貸している。これが「あなたのせい」の真意だろう。
ある人が貧困によって犯罪に走るのだとして、本人が責められるべきなのはもちろんだが、解決すべきは貧困や、相対的に貧困を生み出す仕組みになっている資本主義の行きすぎなのかもしれないし、あるいは貧困から抜け出す武器になりえた教育の不備なのかもしれない。いじめは加害者が100%悪い。そこで「いじめられた方にも何らかの理由がある」とするのはご法度だが、「なぜいじめたのか?」を突き止めないことには、次のいじめは必ず起こる。
本書では、「悪人」が生まれる土壌となっている社会の仕組みやシステムに冷徹な視点を向ける。民主主義や資本主義、ダイバーシティ、SDGsなどなど、私たちが正しいと信じて疑わないシステムのどれもが、例外なく負の側面を持っている。その負の側面には「悪人」が群がっている。
正解を見つけるのが難しく、また正解などあるのかどうかもわからない問題が山積する社会を少しでもいい方向に向けるために、そして難解で複雑で多層的な世界の実像を若い世代に伝えるために、本書は一役買ってくれるはずだ。
(山田洋介・新刊JP編集部)
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