「効率を上げて、成果を出し、キャリアを積み上げたい」
「生産性を上げたい。そして趣味の時間や家族・友達との時間を増やしたい」
こう願いながら毎日仕事をしている人は少なくないだろう。
「効率アップ」「生産性の向上」は、ビジネスパーソンにとって自分らしい幸せな人生を送るために最も必要なスキルである。
しかし、小手先のスキルや技術だけでは、パフォーマンスを最大化することは難しい。なぜなら、自分自身をマネジメントできていない限り、本質的な意味で生産性を上げることに結びつかないからだ。
生産性の向上というと、どうしても「時間の使い方」をイメージしてしまうが、「管理すべきなのは時間ではない」と指摘する人物がいる。新卒でP&G社に入社して以降、日本人として初めてマックスファクター社長に就任し、さらにP&Gバイスプレジデント、アストラゼネカ役員と華々しいキャリアを築いてきた野上麻理氏である。
野上氏は著書『ピークパフォーマンス』(WAVE出版刊)で、「ビジネスのプロは時間よりエネルギーを大切にする」として、成果を最大化するには、自分のエネルギーをマネジメントすることが必要だと述べている。
一体どういうことなのか。「時間」は1日24時間と決まっていて、それ以上にもそれ以下にもならない。パフォーマンスをより高めたいならば、睡眠時間を削って仕事をするという方法もあるが、それでも限界がある。
確かに時間の使い方の効率化も必要だが、本当に重要なことは、いかに成果を上げるかということ。成果を上げるためには、集中力を保つための「エネルギー」の管理が必須になるのだ。
「エネルギー」は「身体」「感情」「思考」「精神」の4種類ある。この4つのエネルギーはピラミッド構造になっていて、ベースに「身体」、次に「感情」、そして「思考」、一番上に「精神」がある。これらのエネルギーは自分自身が管理することで増やすことが可能だ。本書には「身体を整え、感情をコントロールし、思考を明確にして、精神と同じ方向に合わせていけば、最大のパワーが得られます」(p.28より)とつづられている。
このエネルギーレベルを自覚、把握し、マネジメントすることが、メリハリのついた仕事をしながら成果を上げる働き方につながる。
ちなみに、野上氏自身、エネルギーのマネジメントを最初から出来ていたわけではなく、新卒入社後は、とにかく働き詰めで「時間に追われず、効率と生産性を高め、成果を出し続けるにはどうすればいいだろう」と悩んでいたという。そんな時、P&G社で「コーポレートアスリート」というパフォーマンスをアップさせるエネルギーマネジメントの手法を学ぶ機会を得て、仕事、プライベートは大きく変わった。
ピークパフォーマンスを維持するために必要なのは、時間管理ではなく、エネルギー管理であることを実感した野上氏は、それ以来、自分や部下の育成にもこの考え方を取り入れ、大きな成長を遂げた。
本書では、自分のエネルギーレベルを客観的に把握する方法、各エネルギーのコントロールの仕方が詳しく解説されているので、ぜひ参考にしてほしい。
もう一つ、本書からご紹介したいのが「生産性を上げる方法」だ。
生産性を上げるためには、「仕事の基礎能力」を上げることが必要で、その能力は3つあるという。
A.目的を明確に定義する能力
B.情報のインプット、アウトプットの速さ
C.物事の本質をシンプルにつかんで説明する能力
では、それぞれ見ていこう。
まず、 「A.目的を明確に定義する能力」 だが、これは、「何が成果なのか」「何をもって成果が上がったと言えるのか」という本質を明確に定義できる能力のこと。 上司から「これをやってくれ」と降ってくる仕事も多いが、ここでその仕事の目的を定義せず、「上司に言われたからやっている」という意識で取り組むとこの能力は上がらない。
野上氏はこの目的意識の欠如が、日本企業の生産性が低い理由の一つだと指摘する。
大切なことは、目的意識を強く持つこと。野上氏は、かつて在籍していたP&Gで「自分の出すプランの冒頭にはビジネスの目的と目標を書いてから内容に入っていく」という指導を受けたことが良いトレーニングになったと述懐している。
続いて、 「B.情報のインプット、アウトプットの速さ」 は、簡単に言えば速読・速書の能力だ。「目的を明確に定義する能力」があれば、情報の取捨選択がしやすくなり、情報のインプットやアウトプットの速さの向上にもつながる。
この能力は訓練することでさらに速くすることができる。
野上氏は20歳前後の4年間をディベートに費やした。このとき、多くの資料を読みこんで整理し、限られた時間内で相手に反するための議論を構築するという練習が、この能力を伸ばす訓練となったという。
とはいえ、今からディベートに時間を費やすのは難しいという人がほとんどだろう。情報のインプットとアウトプットを速くするコツとして、インプットに関してはまず全体像を把握してから細部を必要なレベルまでチェックすること。アウトプットに関しては、モデルとなる定型文や定型メールを持っておき、まずはそれになぞって書くことで速めることができるという。
最後の 「C.物事の本質をシンプルにつかんで説明する能力」 だが、この能力のベースになるのが「A.目的を明確に定義する能力」だ。物事の本質は何を目的にしているかによって変わるからである。
この能力も訓練によってある程度身につけることができるという。たとえば会議や発表会の議事録を書くことはいい練習になる。このとき、網羅的な議事録ではなく、結論とポイントを要約するようにまとめよう。複雑な状況からポイントを絞り込んでまとめることで、この能力を高める練習が積める。
この3つのスキルは仕事の効率化に欠かすことができないと野上氏はつづる。日々の仕事をする中で、これらの能力を高める機会はあるはず。本書にもその具体例が書かれており、すぐに実践できるはずだ。
タイトルにもなっている「ピークパフォーマンス」という言葉は、アスリートの間ではよく知られており、「最大のパフォーマンスを長期的、持続的に発揮すること」を指す。
ビジネスにおいても、ピークパフォーマンスを発揮することは、成果を上げるために必要不可欠。それができるようになれば、冒頭にあげたような自分が望む人生を送ることができるだろう。そのために今、人生に必要なのは自分のエネルギーを増やし、高めることだ。
本書は、時間に追われることもなくなり、ストレスに駆られることもなく、結果を出しながら幸せに近づくための方法を伝授してくれる。人生の幸せと仕事の成果、どちらも手にするために、身につけてみてはいかがだろうか。
(新刊JP編集部)
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