虐待やネグレクト、過干渉などによって我が子に害を与える親を指す言葉として「毒親」というワードが使われるようになって久しい。
「一部の異常な人」というイメージを持たれがちだが、実際には毒親は「一見、普通な人」の中にもいる。『毒親の彼方に』(幻冬舎刊)はそんな毒親の実態と、毒親に育てられた子どもたちがいかに親に苦しめられ、そして解放されていったかを、カウンセリングの現場で起きた実例を挙げてつづる一冊。
人はなぜ毒親になるのか。そして毒親にならないためには何が必要なのか。自分の親が毒親だと気づいた時、どうすればいいのか。毒親を巡るさまざまなテーマについて著者の袰岩秀章さんにお話をうかがった。
――袰岩さんは臨床心理をご専門にされています。「毒親」という言葉はここ数年、メディアでよく見かけるようになりましたが、臨床心理の分野では今「毒親」はホットトピックなのでしょうか?
袰岩:スーザン・フォワードという心理学者が使った「Toxic parents(有毒な親)」という言葉の訳として「毒親」という言葉が使われるようになったのがはじまりなのですが、臨床心理学の世界ではそれほど積極的に取り上げられているわけではありません。
――スーザン・フォワード以前にも「子どもに害を与える親」という概念はあったんですか?
袰岩:子どもを虐待するとか、うつやアルコール依存症で子育てを放棄するとか、「子どもに害を与える親」自体はたびたび取り上げられてきました。ただ、現在の「毒親」という概念や言葉はありませんでした。
この本のまえがきで少し書いたのですが、虐待やネグレクトをする親だけでなく、「普通の人」の中にも子どもを苦しめる親は存在します。それを表すのに、「毒親」というワードは、ちょっと言葉は強いですがわかりやすいのかなと思います。
――本書では、人がどのように「毒親」になっていくのか、毒親に育てられている子どもはどうすればそこから抜け出せるのかを実例を挙げて解説されています。袰岩さんがこの本を通じて伝えたかったことを教えていただきたいです。
袰岩:ひとつは、毒親はひとりで勝手に毒親になるのではないことです。必ずそこにはプロセスがあって、時には世代を超えた連鎖として生まれてしまうということですね。
もうひとつは、この本では母娘関係に焦点を絞っているのですが、毒親に育てられている娘の方々には、現状から抜け出すことはきっとできるということをお伝えしたいです。
――今のお話にもありましたが、本書では「母娘関係」に焦点を当てています。これは「毒親」という言葉の生みの親ともいえるスーザン・フォワードの母娘関係の描き方を尊重していると同時に、母と娘の関わりの中に「有毒な」という言葉の意味が一番よく表れているからだとされていますが、母娘の関わりの中にこそ母の「有毒さ」が表れることにはどういった事情があるのでしょうか。
袰岩:母娘に限らずどんな組み合わせであっても悪影響を受けるということはありえるのですが、特に母と娘というのはお互いに引き付けあうところがあって、気がつかないうちにプレッシャーを受けていたり、親から色々なものを取り入れていたりしやすいんです。娘はお母さんの影響を受けやすいんですね。取捨選択ができずにお母さんの言うことを何でも吸収してしまうといいますか。
――子どもは生活範囲や行動範囲からいっても、自分の環境や親について他と比較して見られるとは限りません。となると自分が親に苦しめられていたとしても、そうと気づかないケースもあるはずです。自分の親が「毒親」とはいわないまでも「ちょっとおかしいかも」と気づくタイミングはいつごろが多いのでしょうか。
袰岩:おっしゃるように、やはり自分がある程度成長しないと見えてこないというのと、あとは家庭の外の世界との関わりがあるかどうか。この二点を考えると中学生前後が多いのではないでしょうか。
ただ、最近は年齢にかかわらず情報がたくさん入ってきますから、小学生くらいから「うちの親は変だ」と気づく子どもも珍しくなくなってきています。小学生にうつや不登校が増えているのも、早くからいろんなことに気づきやすくなっているからだと思います。
――反対に、社会人になるまで気づかないケースもあるのですか?
袰岩:気づかないというよりも、気づきたくなくて考えないようにしているというケースが多いようです。やはり自分の親を否定せざるをえないようなことに気づくのは誰しもが怖いですから。
――毒親の問題点として「人格的な幼さ」を挙げられています。この幼さはどういったところに表れますか?
袰岩:この本で書いている毒親の幼さとは、責任を持って動けるほど自己が成熟していないということです。具体的には人に依存したり、我慢ができなかったり、といったことで、そうなるとどうしても言動が行き当たりばったりになるんです。
ちょっと思い通りにならないと癇癪を起こして叱ったり、誰かが良いと言ったことに飛びついたかと思うと、やはり誰かに良くないと言われてすぐにやめたり、行動に一貫性がない。
――「自分軸」がないということですね。
袰岩:そうですね。当然子育てにも一貫性がなくて、かわいがってみたかと思うと急に激しく叱ったりする。こういう環境だと子どもは不安定になりやすくなります。
――厳しいなら厳しいで一貫してもらったほうがいいということですか。
袰岩:むやみやたらに厳しいのは困るのですが、そんなに立派でなくても何かしら自分なりのポリシーがあって、それに基づいてほめたり叱ったりするのであればいいと思います。
――それがないと子どもも親をどういう人間か判断できないですよね。
袰岩:そうですね。子どもからすると、かわいがられてはいるけれど守られている気がしないので、精神的に不安定になってしまいます。
(後編につづく)
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