こんな経験をしたことはないだろうか。
道ばたに生えている植物や、虫や鳥の名前がわからなくて、図鑑を見て調べみたものの、結局うまく調べられず、よくわからなかった。
それもそのはず、自分の目に映った動物や植物の特徴から、図鑑で種類を特定するのはけっこう難しい。違う種類だが見た目が似ていることは多いし、特徴を正確に把握していないといけない。この種の特定作業を「同定」というのだが、同定ができるようになるためには、正しい図鑑の見方や使い方をマスターしなければならない。
『図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか?: 生きものの"同定"でつまずく理由を考えてみる』(須黒達巳著、ベレ出版刊)では、勤務先の敷地内で昆虫とクモ800種以上を同定してきた慶應義塾の幼稚舎理科経論である須黒達巳氏が、「なぜうまく同定できないのか」「どういうプロセスで同定ができるようになるのか」を真剣に考え、図鑑と同定について掘り下げていく。
図鑑でその種類を知ることさえできれば、その生き物のことをわかった、と言えるかといえばそうではない。それだけでは図鑑を使いこなしたとは言えない。
図鑑を正しく使いこなすためには、目の前の生き物、図鑑の絵や写真から、特徴を拾い上げなければならない。生き物の名前を調べるために必要なのは、特徴を正しく捉える目だ。図鑑には、先人の努力の結晶ともいえる膨大な知識が集積されている。それだけに使い手の目が伴わなければ、思うように使いこなせない。
では、どのように目をつくるのか。初めに特徴を図と言葉で示し、知識をインプットする。次に、目を凝らして、実際のサンプルからそれらの特徴を見出す作業をする。続いて、もう一度目を凝らし、今度は自分の気づいた特徴を言語化する。そうすることで、だんだんと目をより確固たるものにしていける。
人間の目は、初めは違いにわからなくても、何度も見ているうちに、対象からたくさんの情報を拾えるようになっていく。その生き物の全体のプロポーションや言葉にできなかったものも含めて、その生き物らしさを決める要素を自力で見つけられるようになる。「目をつくる」とは、対象から多くの情報を得ることができ、サンプル同士の違いに気づくことができるということ。まずは、目をつくることから、同定を極める道は始まるのだ。
名前を知らないものは、視界に入っても景色の一部として処理され、通り過ぎてしまうもの。けれど、名前によって物事の認識が促されることもある。それは、個々の名前を知ることで、自分にとっての世界が広がることにつながる。同定によって、ちょっとした散歩など、普段の生活も豊かなものになるはずだ。
(T・N/新刊JP編集部)
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