人は案外自分のことをわかっていないもの。これは個人でも、会社でも、国でも同じだろう。自分の会社が外からどう見えているかは、中にいるとわからないものだし、日本が世界からどう見られているかも、日本で生活している人にはよくわからない。
『海外メディアは見た 不思議の国ニッポン』(講談社)は「世界は"今の日本"をどう見て、どう伝えているのか」を編集方針の一つに挙げる「クーリエ・ジャポン」が、日本が抱える問題や、外国人から見た日本の不思議なところについての報道を紹介する。
自分の常識は他人の非常識、という言葉の通り、日本人が普通にこなしていることも、海外から見ると「なぜ?」となることは少なくない。たとえば、日本人の生産性の低さが話題になると、必ずといっていいほど「日本人はあんなに働くのに」という意見が出る。
確かに、日本人の労働時間は長い。特に東京は顕著で、国際的な40都市のなかでもっとも「働きすぎ」とされている。東京に住む人の週の労働時間は平均42時間。始業時刻の平均はほかの都市と比べてもっとも早い8時57分だった。こんなに早くから長時間働いているのに、一人当たりGDPはG7の中で最低。アメリカと比べると59%も低い。
「長時間働くほど集中力や記憶力は下がり、問題解決力や創造性は失われる」とするのは、イギリス・ベッドフォードシャー大学教授で企業内心理学を専門とするゲイル・キンマン教授だ。
「労働者の多くは、長時間働いたからといって優れた業績を残せるわけではない、という事実を受け入れようとしません。実際にはその反対です」(キンマン教授)
この問題を追った英紙「ガーディアン」は、2019年に日本政府が時間外労働の上限を一カ月45時間、一年につき6カ月以内の繁忙期には100時間と設定したことに触れているが、これで日本の働きすぎ文化に歯止めがかかるかどうかは疑問が残る、としている。日本人労働者には「長時間働くことによって自分のがんばりを示す」圧力がかかっているという指摘には、うなずける部分があるのではないだろうか。
おもしろいのは、東京で働く人の年間平均労働時間は1997時間と、ロンドンの2022時間やニューヨークの2046時間よりも、いちおうは短いことだ。
では、世界でもっとも長時間働く都市はどこなのだろうか。 スイスのUBS銀行の年次報告によると、世界一長時間労働をする都市といえるのは、インド・ムンバイで、平均すると年間3315時間も働いている。OECD加盟国で見るとメキシコの首都・メキシコシティの2622時間という数字が際立つ。
一方で世界一労働生産性が高いアイルランドは1時間あたり84ドルを稼ぎ出すが、首都ダブリンの年間平均労働時間は1856時間。東京とさほど差はないが、時間当たりの稼ぎで大きな差が出てしまうあたりは、賃金の低さを感じざるをえない。
◇
オリンピックで銀メダルをとったのに「金ではなかったから」と謝罪するアスリートは日本以外ではまず考えられないし、インターネット全盛の時代にファックスが活躍するのも海外ではあまり見ない光景だ。年功序列がいまだに幅を利かせているのも、世界的にはかなり珍しい。
普通に生活しているとあまり気がつかない日本の特異性が、本書を読むとよくわかるはず。もちろん、いい悪いではないし、かならずしも改善する必要があるわけでもない。ただ、自分の国の現状を相対的に見るということは、それだけでも学びが多い。本書はその貴重な機会を与えてくれる。
(新刊JP編集部)
関連記事
次これ読もう、が見つかる「新刊JP」 日本最大級の書籍紹介ウェブサイト。話題の書籍や新刊本をブックナビゲーターが音声で紹介するインターネットラジオ番組「新刊ラジオ」や、書評記事、イベントレポート、出版業界の動向などを提供するニュースメディア「新刊JPニュース」、旬の作家のインタビューを掲載する「ベストセラーズインタビュー」、書店をフィーチャーした企画や電子書籍レビューなど、本にまつわるコンテンツを豊富に揃えています。あなたの「あ、これ読みたい」が見つかるはずです。
記事一覧 公式サイト当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?