今日も残業、明日も残業。仕事は増えるけれど、残業時間は削減しろと言われる。
そんな「残業沼」から抜け出せずに悩んでいるビジネスパーソンは少なくない。
そんななか、定時上がりでも成果を出し、人事評価も高い社員たちはどんなタイムマネジメントをしているのだろうか?
シリーズ累計15万部(2022年5月現在)の最新作『AI分析でわかった トップ5%社員の時間術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)のテーマは「時間術」。それも単なる時短テクではなく、実際に5%社員たちの言動をAIで分析し、その行動の本質から誰でも再現できる方法を紹介している。
ここでは著者の越川慎司さんにお話を聞き、5%社員たちが実践していた役に立つ時間術を教えてもらった。
(新刊JP編集部)
――『トップ5%社員』シリーズの3作目は時間術です。このテーマに設定された理由からお聞かせください。
越川:このシリーズは、クライアント企業の人事評価トップ5%社員の行動や言動をAIで分析し、その中で出てきた意外なデータをコンテンツとしてまとめているのですが、今回のテーマである「時間術」もその意外なデータの一つでした。
また、もう一つの理由として「時間術」のニーズが大きいということがあります。働き方改革関連法案の影響から世のビジネスパーソンたちが残業削減を強いられている一方で、仕事は減るどころか増えている状況があって、いわゆる「残業沼」から抜け出せずに悩んでいる人がすごく多いんです。
特にこの2年間はクライアント企業からタイムマネジメントやタスク管理の講座やコンサルティングをしてほしいという依頼が多くて、時間術のニーズの高さを感じていました。
――この2年間にそういった声が多かったということは、コロナ禍による働き方の変化の影響もあったのでしょうか?
越川:コロナ禍の影響で言うと、テレワークの普及によって通勤時間などはなくなったものの、自宅で仕事をしているとプライベートの切り分けが難しくなり、気づけばずっと仕事をしていたという声は珍しくありません。また、「残業をするな!でも売り上げは落とすな!」と言われて、隠れ残業をしてしまうケースもあります。
テレワークの普及と残業削減圧力によって、困っている人が多いということなのだと思いますね。
――確かにそのお話を聞くと、タイムマネジメントの必要性を強く感じます。
越川:そうですね。そこで、5%社員の時間に共通していた意外な時間の使い方をクライアント企業の2.2万人に試していただいたところ、「時短効果があった」と回答した人が89%もいて再現性が高いことが判明したんです。ならば、多くの方に実践していただこうということで、急遽このテーマで本を書くことになりました。
――5%社員の時間術の意外な特徴とはどのようなものですか?
越川:人事評価で優秀な評価をもらっている方々ですから、私も最初は業務処理能力が高いことが、残業をせずに成果をあげられる理由なのだろうと思っていました。でも、意外なことに、処理能力がひときわ高いというわけではなかったんです。
決定的に違う部分は「無駄なことをしない」ということです。本書にも書いていますが、彼らは「効率」ではなく「効果」を大事にしています。これは、上司やお客様に求められていることを必ず意識して、それしかやらないというイメージですね。
例えばパワーポイントで資料を作る時に、良かれと思って手の込んだ派手なものを作っちゃったりするじゃないですか。でも、それは単なる自己満足で時間を奪うだけのものと彼らは考えています。
――成果を出すことだけを考えて余計なことはしないということですね。
越川:そういうことですね。また、彼らは集中力が高い傾向にあるのですが、「これは集中力を高めている」というよりは、「集中力を高く保てる時間を増やしている」といったほうがいいでしょう。
人間はそんなに長く集中力を保つことができませんから、45分集中して休憩、45分集中して休憩と、細かく刻みながら集中する時間を増やすようにしています。また、わざとため息をついたり、睡眠時間を長く取ったりするという工夫も取り入れたりしています。
結論をいうと、その人の持つ能力ではなく、仕組み化して高い集中力を発揮していたというのがポイントです。
――5%社員の時間術を残りの95%社員が実践する際に、特に成功しやすいテクニックを教えてください。
越川:再現率が高かったテクニックでいうと、数字で表現できるものですね。例えば先ほどいった45分集中して休憩を入れるというとか、「金曜に大きな仕事を2つ書き出す」といった、時間や数字で表現できる行動は真似しやすいです。
また、社内会議が多すぎると感じたときの「時短3アクション」として「参加者をその気にさせる」「上司に仕切らせない」「議事録は会議中に完成させる」という3つのアクションをまとめたのですが、それも効果が高かったです。他に会議時間を60分から45分に短縮したり、アジェンダを24時間前に共有するということも、時間短縮に成功しやすかったです。
――確かに社内会議はズルズルと長引いてしまいがちです。
越川:管理職の方々には説明しづらいのですが(笑)、特に「上司に仕切らせない」というアクションは予想以上に上手くいきました。上司が仕切ってしまうと、会議時間の7割はその上司が話していたりするんですよね。だから、上司ではない人をファシリテーターとして立てると時短に効果があるし、メンバーのファシリテーション能力も上がるんです。
――その意味では本書に書かれている時間術が、時短だけでなくスキルアップにもつながるということですね。
越川:そうですね。この本のテーマは、今まで良かれと思ってやってきたことを、勇気をもってやめるということだと思います。今の話で言えば、上司は悪気があって独演会をしているのではないけれど、結果的に時間が伸びてしまっている。それを一度立ち止まって振り返ってもらう。
ご自身の業務を一度振り返ってもらって、改善したいものの中に本書のテクニックが活用できるものがあれば、ぜひ実践してもらいたいですね。
――本書を読ませていただいて、5%社員は仕事の手離れというか、仕事を抱え込まないように準備をしたり、周囲を巻き込んだりすることがすごく上手いように感じました。これはタスクマネジメントの上手さだと思いますが、どのような部分が95%社員と大きく違うのでしょうか。
越川:5%社員のタイムマネジメントは仕事を受けたタイミングで始まるんです。仕事を受けたときに「自分で完遂する」という選択肢だけではなく、「これは任せる」「これはやらない」という判断もあるんですよね。そこが決定的に一般社員と違います。
だからおっしゃる通り、他者を巻き込む力は圧倒的に高いですし、仕事の仕方がすごくスマートに見えるんですよ。これを日本語で言うと「ずるい働き方」になるのですが、とにかく成果に向けて最短距離で仕事をするということを大事にしています。
――ほとんどの社員は仕事を振られたときに「やらない」という選択肢が浮かばないと思いますが。
越川:「やらない」というのは、引き受けたものをやらないのではなく、例えば資料の作成を依頼されたときに、不必要に派手にしないとかそういうことなんですよね。そこはやはり先ほどお話したように、「効果」「成果」を第一に考えているというところが大きいんですよね。
――タスクマネジメントでいうと、本書の88ページと89ページにあったタスク進行パターンの表はすごく分かりやすかったです。「スロースタート」「慎重」「スタートダッシュ疲れ」型はかなりムラがありますけど、5%社員は無駄がありません。
越川:これはあるあるですよね。例えば慎重パターンのように、期限は守るけれど慎重に準備をしていった結果、いつも納期近くにバタバタするという人は、そこで力を出し切ってしまって次の仕事にかかる初動が遅れてしまうんです。一方で、5%社員は少し余力を残して仕事を終えるので、次の取り掛かりも早いんですよね。
――その「初動が早い」という5%社員の特徴はかなり大きなポイントですよね。
越川:これはすごく大きなポイントです。今回の調査でどのようにしたら時短ができるかということを分析した結果、そのきっかけとなるものが3つあったんです。
まずはやらなければいけないことを時間内に終わらせる処理スピードですね。これが世に言う「時短術」です。ただ、それは時短のきっかけの3分の1にしか過ぎなくて、残りの3分の2は、「初動を早める」ということと「集中時間を継続する」ということなんです。
その中でも圧倒的に影響があるのが「初動を早める」で、仕事の取り掛かりを早くすることで、かなり時短できるということが分かったんですよね。だから、5%社員の行動を見ていると「やる気が出ないから仕事を後回しにする」ということがほとんどないんです。まずは仕事に手を付ける。そこから集中力のマネジメントをしていくということですね。
――「モチベーションが出なくて仕事を後回しにしてしまう」ということは私もよくありますが、それがズルズルと業務時間が伸びる原因だったんですね。
越川:5%社員を取材していて分かったのですが、モチベーションを高めてから仕事をするのではなく、仕事をはじめたら作業興奮でモチベーションが高まってくるという方が正しいんです。だから、5%社員のお話を聞いていて、「やる気に頼らない」ということはすごく大事だと分かりましたね。
(後編に続く)
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