スマートフォンやパソコン、電気自動車など、普段使用している身の回りの製品には、多くのメタル(金属元素)が組み込まれている。たとえば、スマートフォンのディスプレイには、インジウムやガリウムというメタルが使われている。これらのメタルはどこに、どのような形で存在し、どのようにしてハイテク製品にまで辿り着くのかご存じだろうか?
『元素のふるさと図鑑』(西山孝著、化学同人刊)では、レアメタル研究の第一人者である京都大学名誉教授の西山孝氏が、元素のふるさとである鉱山からメタルを取りだし、素材として役立つまでの道のりを図解や写真を用いて解説する。
鉱石とは、現在の技術でメタルを取り出して利益の出る岩石のこと。目的のメタルがどれくらい含まれていれば利益の出る岩石になるかは、メタルによってまちまちである。アルミニウムや鉄なら、地殻の元素存在度にくらべて数倍から10倍程度含まれていれば鉱石になる。銅鉱石や金鉱石では、数10倍から1000倍になるという。
メタルの生産は、鉱石を探すことから始まり、鉱石→採鉱→破砕・選鉱→製錬・加工という工程を辿って素材となり、ものづくりの材料として様々な形に加工されて製品になる。そして、使用後は廃棄され、リサイクルに回される。
鉱石から素材への流れには、注意すべき幾つものボトルネックがあり、そこが乱れるとメタルの価格は高騰する。鉱石から素材への流れの上流では、民族紛争や大鉱山のストライキ、鉱山の崩落事故などなどのトラブルがボトルネックになることがある。2010年には、チリで坑道の崩落事故により33名の鉱山作業員がサンホセ鉱山に閉じ込められ、69日後に救出された事故が起きている。下流側では、ハイテク製品の爆発的な普及による原料不足などで、流れが大きく乱れることがある。
また、上流と下流の間のボトルネックとなるのは、政治的・経済的な都合、人為的につくられた輸出入制限、カルテル、株価の操作などで、これらは世界を揺るがす大きな事件となる。たとえば、2010年秋のレアアース危機と呼ばれる事件は、当時レアアースの世界生産量の97%を占めていた中国が突然、政治的な理由から輸出を禁止したため、一時的に30~40倍もの高値になった。日本では、ハイブリッド車の駆動用モーターや液晶ガラスの研磨などのハイテク部品にレアアースを使っており、日本の社会基盤のもろさを表した事件でもある。
本書では、鉱石から素材への流れやその周辺で起こっている問題、メタルごとの鉱石がメタルになる流れ、メタルの未来までを紹介。どんなメタルが身近な製品に使われているかなど、元素、メタルを知ることは、資源経済学や地政学にもつながる。本書から元素について学んでみてはどうだろう。
(T・N/新刊JP編集部)
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