2023年10月に導入されるインボイス制度によって、フリーランスで働く人は収入減の危機に直面している。
なかでも影響を受けやすいのは、フリーランスの中でも比較的小規模でこれまで消費税の納税を免除されてきた「免税事業者」と呼ばれる人々。彼らはインボイス制度導入によって売上が1割ほど減る可能性がある。
この事態を回避したり、少しでもダメージを少なくする方法はあるのか?
『フリーランスがインボイスで損をしない本』(日本実業出版社刊)の著者で税理士の原尚美さんにお話をうかがった。
――インボイス制度が収入を直撃するのは、フリーランスの中でも「免税事業者」にあたる人かと思いますが、インボイスによってどんなところで「損」が出るのかについてお話しいただければと思います。
原:まず一番大きな点は、インボイス制度が始まると免税事業者と取引をする会社は「仕入税額控除」が受けられなくなります。この控除がなくなるとその会社の消費税の納税額が増えてしまうわけで、前と同じようにフリーランスに消費税込の金額を支払っていると、会社側の負担が大きくなってしまいます。
だから、インボイス制度が始まったら、免税事業者には消費税は払わないと考えるのは、ある意味当然と言えます。そうなるとフリーランスは10万円の仕事で税込11万円もらっていたのに、10万円しかもらえなくなってしまいます。10%の減収になるというのが最悪のパターンですね。
――10%の減収はフリーランスにとってはかなり大きいですね。ただ、これまで免除されてきた税金を支払いましょうということですから、制度的にはフェアになるのかなという気もします。
原:正直それは否定できないのですが、免税事業者の方々は、平成元年の消費税導入以来30年以上、消費税分の免税があたりまえという環境で生計をたててきているので、急に収入が1割減るというのは大変なことだと思います。それと、免税事業者の方々も仕事に必要なものを買う時に消費税を支払っているわけですよね。インボイス制度によって消費税分がもらえなくなっても、自分は消費税を支払い続けなければいけません。払うだけで受け取れないという意味で二重に損失なんです。
――免税事業者は収入減を受け入れるしかないのでしょうか?
原:免税事業者ができる対策はいくつかあるのですが、まずは自分の取引先がインボイスを必要としているかどうかを見極めることです。かならずしもすべての会社がインボイスを必要とするわけではないので。
たとえば小売業など、「取引先は消費者」というビジネスをしている人であれば、インボイスを発行する必要はありません。また取引先も免税事業者である場合もインボイスは不要ですし、相手が簡易課税を導入しているケースもインボイスは不要です。
ただ、取引先が大手企業であるなど、相手がインボイスを必要としている場合も多いはずです。そうなると、取引先との関係が大事になってきます。取引先から見てものすごく大事なフリーランスだったり、業界的に人手不足で辞められたら困る状態だったりしたら、価格交渉の余地があるんです。交渉次第で消費税分だった金額を本体価格に上乗せしてもらえる可能性もありますし、消費税分の10%全額は無理でも5%は本体価格に乗せてくれるかもしれません。
――なるほど、そこの交渉はその人次第なんですね。
原:そうなりますね。IT業界などは「その人じゃないとダメ」という仕事が少なからずあったりしますし、そもそも人手不足なので免税事業者に交渉の余地はかなりあると思います。個人でコンサルタントをされている方なども同様ですね。
――インボイス制度によって免税事業者が取引先から取引を打ち切られてしまう可能性について教えていただきたいです。
原:これは取引先の業界やその会社との関係性次第でしょうね。たとえば、慢性的に人材不足だったり、フリーランスが特別なスキルをもっていて、その人がいないと業務が回らなくなるかなど。もちろん取引先の経営状況や、取引先社長の人柄によっても変わってきます。「無条件にこれまで支払っていた消費税分を全額本体価格に上乗せする」という社長もいますし、「インボイス制度が始まったら免税事業者とは取引しない」という人もいます。
(後編につづく)
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