相手の何気ないひとことによって傷ついたり、意欲を失ったり、自分のやっていることが無意味に思えた経験は誰にでもあるはず。言った本人は深く考えていなくても、言われた方は案外その言葉を長く引きずったりすることもある。
特にこうした言葉にさらされやすいのは女性であり、相手から何気なく女性を区別したり、言った本人も気づいていない偏見によって女性を軽視するひとことを投げかけられることがある。もちろん、言うのは男性も女性もいる。
『10代から知っておきたい 女性を閉じこめる「ずるい言葉」』(森山至貴著、WAVE出版刊)はそんな言葉の数々を指摘し、その「ずるさ」の核心に迫る。人によってはこれまでに言われてモヤモヤしてしまった言葉があるかもしれない。あるいは、無意識に使っている言葉もあるのではないか。
たとえば、子どもの夜泣きに悩まされている女性Aさんに、知人女性Bさんが同情・共感の言葉をかける。
「想像しただけでも大変そう」
Bさんには子どもがいないが、夜泣き対応の大変さはなんとなく想像がついたためこんな言葉をかけたのだが、Aさんはこの言葉が気に入らなかった様子。
「大変なんてもんじゃないって。あなたには子どもがいないからわからないよ」
つい、こんな言葉が出てしまった。毎晩子どもに起こされて自分はゆっくり寝る暇もない生活のつらさは、子どもを持たないとわからないと思ったからだ。
AさんとBさんの間には「わかっている」についての認識の違いがある。Bさんは一般的な夜泣きについて「わかっている」と思ったからAさんに共感の言葉を送り、一般的な夜泣きを理解したくらいで自分の苦しみを分かった気にならないでほしいAさんはその言葉を拒絶した。Aさんの方が「わかっている」のハードルが高いのだ。
ただ、この理屈だと人は同じ経験をした人にしか共感できないことになってしまう。本人の苦しみやつらさは尊重されるべきだが、だからといって「経験していない人にはわからない」と言ってしまうと、相手に「越えられないハードル」を課すことになる。「子どもがいないからわからない」のずるさはここにある。
もしこんな言葉を人に言われたら、何と返せばいいだろう。
本書では 「そうかもしれませんね」 という返答を挙げている。
今まさにつらい人が、他人の安易な理解を拒絶したくなる気持ちには理解を示しつつ、それでも共感する意志は示す言葉である。
◇
「その年齢で子どもがいるわりには若く見える」
「いいお嫁さんになれるね」
「女にはわからない世界だから」
「女の子なんだからそんなことしなくていいよ」
これらの言葉を女性に投げかけるのが、近年では「アウト」とされることは誰もがわかるはず。しかし、どこがなぜいけないのかを説明するのは案外難しい。
本書では女性に向けて言われることの多いこれらの言葉が含む「ずるさ」を、わかりやすい比喩をつかって丁寧にあぶりだしていく。昔言われたひとことが不快だった理由、自分が相手を不快にさせてしまった理由がわかる一冊。年齢を問わずどんな人にとっても学びがあるはずだ。
(新刊JP編集部)
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