あなたにとって「マネジメントの常識」とは何か。それは本当に正しいのか――。
ヘンリー・ミンツバーグ氏の最新刊『これからのマネジャーが大切にすべきこと――42のストーリーで学ぶ思考と行動』(ダイヤモンド社)は、「経営学の権威が示す仕事の本質」をまとめた一冊。
硬派なビジネス書だろうと思いながらページをめくると、何やらちがう気配がした。本書はこんな意外な言葉で始まる。
「組織が牛のようでいられるように、みずからもスクランブルエッグを食べているすべてのマネジャーに捧げる」
原題は『Bedtime Stories for Managers』。邦題とずいぶん異なる。本書は、著者のブログ記事を集めて「マネジャーが寝る前にベッドで読めるような本をつくってはどうか」という発想から生まれたそうだ。
はじめに、本書で訴えていることを端的に書いている。
「この本は、遊び心でいっぱいだけれど、とても真剣なメッセージが込められた本だ。マネジメントは、現場から離れた高い場所でリーダーシップを振りかざすことではなく、地に足をつけて現場に関わっていくことであるべきだ」
「遊び心でいっぱい」は、本書の特徴と言える。ただストレートに正論を述べるのではなく、記憶に残る比喩や逆説をはさんで読者を本質に導くのだ。
「ページをめくるとき、次はどんな世界が現れるのかと思いながら読み進めてもらえれば幸いだ」
たとえば、「牛と庭」「スクランブルエッグ」「オーケストラの指揮者」「ミツバチのような取締役会」などの比喩がでてくる。
これらがマネジメントと何の関係があるのかさっぱりわからないところから読者は出発し、謎解き感覚で読み進めていくことになる。
本書は「第1章 マネジメントの話」「第2章 組織の話」「第3章 分析の話」「第4章 マネジャー育成の話」「第5章 文脈の話」「第6章 責任の話」「第7章 未来の話」の構成。
まず、「マネジメントとスクランブルエッグ」を紹介しよう。もうずいぶん昔のこと、著者は、当時世界屈指の航空会社だったイースタン航空の機内にいた。
機内食は、「スクランブルエッグ」とは名ばかりの「ひどい代物」だった。客室乗務員に文句を言うと、「会社には伝えているのですが、聞く耳をもたないのです」という。
「そんな馬鹿な! (中略)経営陣がマネジメントそっちのけで金勘定に目を奪われているのではないかと疑いたくなる」
数年後、IBMのマネジャーからこんなエピソードを聞いた。イースタン航空のCEOが自社便に乗ろうとしたところ、ファーストクラスは満席。そこで、同社は料金を払い戻してファーストクラスの客をエコノミーに移動させ、CEOのための座席を用意したそうだ。
「マネジメントで大事なのは、座り慣れた席にどっかり腰を下ろすことではなく、まずいスクランブルエッグを自分も食べることだ」
もう一つ「生きた牛のような組織」から。本書に牛肉の部位を表したイラストがある。著者はこれを牛の「組織図」と呼ぶ。
何が言いたいのかというと、「牛が元気に生きていれば、(中略)一つひとつの部位が役割を果たし、その結果、おのずと一頭の牛として全体の調和が取れる」ということ。
「生きた牛のような組織」をつくるヒントは「牛のように歩くこと」にあり、「みんなが一体になって仕事をし、一体になって歩くことが重要なのだ」という。
「この本はマネジメントの本だが、マネジメントの特効薬は期待しないで欲しい。(中略)本書では、思いがけない発見を提供したい」
著者の意図したとおり、本書はこれまでの「マネジメントの常識」をリセットする「発見」に満ちている。「より良いマネジメント、より良い組織を目指すすべての人」にぜひ読んでほしい、面白くてためになる良書だ。
■ヘンリー・ミンツバーグ氏プロフィール
1939年生まれ。カナダのマギル大学クレグホーン寄付講座教授兼経営学大学院教授。著書に『私たちはどこまで資本主義に従うのか』『マネジャーの実像』『MBAが会社を滅ぼす』『戦略サファリ[第2版]』『H.ミンツバーグ経営論』などがある。経営思想界のアカデミー賞と言われる「Thinkers 50」で3人目となる生涯功績賞を受賞。
■池村千秋さんプロフィール
翻訳者。主な訳書に『LIFE SHIFT』『なぜ人と組織は変われないのか』『WORK DESIGN』など。ミンツバーグ氏の翻訳も数多く手がける。
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