人間、いつかは必ず死ぬ。
誰もがそれをわかっているが、その「いつか」がいつなのかは、ほとんどの人は知らない。自分が来月死ぬと思っている人も、来年死ぬと思っている人も、あまりいない。あと数年か、数十年か、自分にはそれなりに長い時間が残されているのではないかと、漠然と考えている。
だからこそ、「一年後に死ぬとしたら、残された時間をどう生きるか」を考えることには意味がある。
「人生に締め切りを設けることで、何がやりたいか、何が大切かが明確になる」とするのは、『もしあと1年で人生が終わるとしたら?』(アスコム刊)の著者で、ホスピス医として3500人以上の患者を見送ってきたという小澤竹俊氏だ。
「死ぬ時に思い残すことのないように生きる」とはよく言われるが、これは言葉ほど簡単ではない。どんなに悔いを残さないように生きても、「あれをやっておけばよかった」「あの時ああ言っておけば」という後悔は多少なりとも生まれてしまう。
また、死に方、死ぬ時の状況も人によって違う。だから、思い残すことがない人生をおくるための共通の方法は、厳密には存在しない。
それでも、小澤氏は人生の最後に「いい人生だった」と思えるようにするために
・自分で自分を否定しないこと
・いくつになっても新しい一歩を踏み出すこと
・家族や大切な人に、心からの愛情を示すこと
・今日一日を大切に過ごすこと
の4つを挙げている。
一方で「いい人生だった」と思うことを阻害する要素もある。
それは「思い込み」だ。
「やりたいことを見つけて、自分なりに努力する」
「誰かの役に立つ」
あるいは、冒頭であげたように「悔いを残さないように生きる」などだ。
もちろん「これだけはやりたい」という最優先事項がある人生はすばらしいし、誰かに必要とされ、役立つ人生もすばらしい。悔いを残さないように生きるという心がけも大切ではある。
ただ、やりたいことがないから、自分の人生には価値がないと思っているとしたら、それはまちがいだ。
この社会で、人はしばしば「やりたいことは何か」を尋ねられます。
子どものころは、大人たちから将来の夢を訊かれ、就職する際には、その会社で何をしたいかを訊かれ、定年を迎えると、第二の人生で何をしたいかを訊かれます。
そのため、私たちはいつの間にか、「やりたいことがあるのは当たり前のことだ」「夢や目標を持つべきだ」と思い込んでしまっています。(『もしあと1年で人生が終わるとしたら?』より)
自分には自分の生き方と人生のペースがある。夢や目標、やりたいことがないからといって人生の意味が薄れるわけではない。「人の役に立つ人生」も同様だ。誰かの役に立つのはすばらしい。しかし、人生の価値が人の役に立つかどうかで決まるわけではない。もっといえば、どんな人であっても、存在するだけで必ず誰かの支えになっている。
ただ、それでも自信が持てなかったり、生きる意味を見出せないなら「人生がもしあと1年で終わるとしたら?」と考えてみるといいかもしれない。人生の終わりを考えるということは、これまでの人生を振り返ること。その過程で、昔好きだったことや、大切だったこと、これまで気がつかなかった人生の意味が見えてくることがあるからである。
◇
私たちは「夢」「目標」、あるいは「お金」のように、人生の充実度や満足度をわかりやすい指標に結びつけてしまいやすいが、「人生がもしあと1年で終わるとしたら?」と想像してみることは、知らない間に絡めとられてしまっているこうした指標から、少しの間だけ離れることになる。多くの人にとって、それは新鮮な感覚なはず。今の毎日をこのまま続けていいのか、これからどう生きるのかを考えるために、本書の問いかけは役だってくれるはずだ。
(新刊JP編集部)
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