誰にとっても無関係ではないお金。
「稼ぐこと」と「増やすこと」は誰もが考える一方で、「使うこと」には多くの人があまり意識を置いていない。
「お金はよく吟味して、自分にとって有意義な使い方をすべし」という、人生設計や貯蓄術の観点でのお金の使い方も大事だが、「どんな時、どんなことに、どれくらい使うか」は時として周囲の人から見られている。そこで「残念なお金の使い方をする人」と見られたら、「今後稼ぐお金」や「将来の人間関係」にも影響する。
たとえば、友人に借金を申し込まれたとする。
50万円貸してほしいと懇願する友人に「いいよ」とふたつ返事で貸したら、もちろん感謝はされるだろうが、その度合いは小さい。「これでピンチがしのげる」という安堵の方が大きいかもしれない。
ところが、一度「無理だな」と断ってから、それでも頼み込んでくる相手に対して渋ってみせたうえでOKすれば、それだけ相手の感謝の気持ちは大きくなり、相手に大きな貸しを作ることができる。
あるいは「10万円貸してほしい」と頼まれたにもかかわらず、「これしかなくて」と3万円しか貸さなかったとする。すると、相手からしたら別の人間にもう一度金策に回らなければならず、やはり感謝どころではない。
反対に「何かと物入りだろう」と12万円貸したら、相手は間違いなく感激する。この場合もやはり相手に大きな恩を売れることになるのだ。シンプルな例だが、お金のやり取りからは上下関係や強み弱みが生まれやすい。
しかし、お金を払ったから相手より心理的に上に立てるかというと、そうでもない。
部下とのコミュニケーションを取ろうと飲みに誘った時、ストレートに「さあ、飲みに行こうか」と、一方的に誘うだけだと、上司に付き合うことで業務外の時間を潰されることに、部下は不満たらたらである。こうなると会計を全額上司が払ったとしても、部下から悪印象はなくならない。おごったのに悪印象を持たれる。お金の使い方としては最悪だ。
これに対して、「君とゆっくり飲んでみたかった」というひと言があると、部下からの印象はまったく違うものになる。上司が自分に注目していることを知って嫌な気持ちになる人はいないだろう。もしかしたら自分の能力を買ってくれているのかもしれないと思えば、もっと評価を高めたいと思うのが人情。その気持ちは仕事にも表れる。
部下におごった見返りに、心を掴む。これが意味のあるお金の使い方だ。
◇
『おカネは「使い方」が9割』(向谷匡史著、三栄書房刊)には、このような周囲の人間からの評判や評価につながるお金の使い方が、わかりやすい実例を交えて解説されている。
思えば、貸し借りや祝儀、飲み会の割り勘に至るまで、お金のやり取りは「どんな場面で払う(受け取る)か」「誰に払う(受け取る)か」「どのくらい払う(受け取る)か」「どんな言葉を使って払う(受け取る)か」がすべて意味を持つ、高度なコミュニケーションである。
このコミュニケーションは、デキる人は自然にできても、無頓着な人はまったくできず、結果周囲の人間からの評判を下げてしまう。
ケチだと思われても嫌われ、金払いが良すぎても金づると見なされるのがお金の難しいところ。どうせお金を使うなら、周りから好かれ、人間関係を円滑にする使い方を身に付けたいものである。
(新刊JP編集部)
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